リビア:長期化する政治的対立

by | 2025年03月20日 | Global View, 中東・北アフリカ, 共生・移動, 政治, 法・人権, 紛争・軍事

GNVでは、2020年に「リビア:和平への長い道のり」と題し、複雑化するリビアの情勢について解説した。この記事の時点では、リビアには主要な政治勢力として、西部にある首都トリポリに国家統一政府(GNA)と東部の都市トブルクにある代議院(HOR)という2つの「政府」が存在していた。2020年2月の段階では、この二者の間で停戦合意が結ばれたものの、直後に武力衝突が発生したことによって、紛争終結は果たされなかった。

それから5年の歳月が経過し、新たに停戦合意が結ばれ、政府の統一に向けた取り組みはなされている。しかし、政府が複数併存している状況に変わりはない。停戦合意ののち、2021年に新たに国民統一政府(GNU)が発足したが、HORは加わっておらず、2つの政府の間に対立が続いている。政府は2つ存在しているが、中央銀行はただ1つであり、最近では、石油収入を管理するその中央銀行の総裁の座を巡って、GNUとHORは激しく対立した。

停戦合意自体は継続し、武力紛争は落ち着いた状態にあるものの、リビア国民は不安定な状態に置かれ続けている。前回の記事を踏まえつつ、リビアの最新の動向についてみていきたい。

首都トリポリの殉教者広場(写真:Hussein Eddeb / Shutterstock.com)

リビアの歴史

リビアの最新の情勢に入る前に、リビアの基本情報や歴史、これまでの情勢について、簡単に見ておこう。

リビアは、北アフリカに位置する人口680万人ほどの国である。国民の大半はアラブ人としてのアイデンティティを持ち、イスラム教徒となっている。主な産業は石油関連産業であり、石油以外にも天然ガスなどエネルギー関連の輸出が盛んである。また、地理的・歴史的にアフリカとヨーロッパの交易拠点になってきた。

リビアは、16世紀にオスマン帝国下において、3つの地域(トリポリタニア、キレナイカ、フェザーン)からなる一国として定められた。その後、20世紀前半におけるイタリアによる植民地支配を経て、1951年にイドリス国王擁する立憲君主制の王国として独立した。

独立後、自国のみでの経済循環がうまくいかなかったリビアは、次第にアメリカやイギリスを中心とする外国に頼るようになる。1950年代中ごろに豊富な石油資源が発見されるようになると、外国資本が流入するなど、その傾向はますます強まる。こうした状況への不満やアラブ主義に基づいたナショナリズムを背景に、1969年に軍人のムアンマル・アル=カッザーフィー氏(カダフィ)による軍事クーデターが発生する。カダフィ政権による統治は、当初、リビアの政治的独立を達成することを目標としていた。そのため、外国資本の押収や外国の軍事基地の撤退を進め、欧米諸国との関係は悪化していく。ただ、1970年代の経済危機以後、その政治は徐々に権威主義化する。

そして、2011年、北アフリカと中東を中心に広がった「アラブの春」の民主化運動の波は、リビアにも到達した。カダフィ政権による弾圧から武力紛争に発展し、北大西洋条約機構(NATO)の介入の末、政権は崩壊した。2011年10月にはカダフィ氏自身も殺害された。国を率いる組織や指導者が定まらないまま政権が倒れたことによって、リビアは不安定な状況が続くことになった。

紛争中に国民評議会(NTC)が暫定政権として立ち上げられ、国際機関からの支援を受けていた。しかし、NTCは混乱するリビア情勢をまとめられず、リビア各地で異なる勢力が自治を行ったりするようになった。NTCは国の法制度を作るための機関として国民全体会議(GNC)を2012年に選挙により作ったが、任期が過ぎても解散しなかった。そうしたなかで、新たに議会選挙が行われ、2014年に代議院(HOR)が成立した。しかしその後すぐ、限られた数の投票者によって行われた選挙結果に反発したイスラム系勢力は、HORを首都・トリポリから追い出し、独自の政府を設立する。追い出されたHORも避難先のトブルクで政府を樹立し、リビアでは2つの政府が並立するようになる。

このような状況下で、トブルク政府は、元国軍のハリファ・ハフタル氏率いるリビア国民軍(LNA)と呼ばれる武装勢力を組み、ハフタル氏はリビア国内の全イスラム系勢力の討伐を目指す。2015年になると、国連の仲介により、国家統一政府(GNA)の樹立が合意され、トリポリ政府とトブルク政府が歩み寄りを始めた。しかし、結局トブルク政府はGNAを信任せず、GNAとトブルク政府が併存する状態になる。

2019年、LNAがトリポリ制圧を試みたものの、トルコの支援を受けたGNAはこれを凌ぐ。2020年に入ると、LNAのハフタル氏はGNAに圧力をかけるために、石油生産の封鎖を始める。その後、2020年2月の段階では、2つの政府の間で停戦合意が結ばれたものの、直後の武力衝突によってこの合意は立ち消えになってしまった。

LNAトップのハリファ・ハフタル氏(写真:Ministry of Defence of the Russian Federation / Wikimedia Commons [CC BY 4.0])

2020年の停戦と新たな2つの政府

ここまで、GNVが2020年の記事で報道したリビア情勢について概観してきた。リビアは、現在でも2つの政府が併存している状態にあるが、その内容は2020年時点のものとは異なっている。ここからは、2020年以降のリビア情勢についてみていく。

前述のように、2020年2月にGNAとHORの間で交わされた停戦合意は、直後の武力衝突により有名無実化した。しかし、その後8月にはGNA側が即時停戦を発表し、これに対しHORと組むLNAのハフタル氏が2020年初頭から続けていた石油施設封鎖の解除で応じ、対立は徐々に落ち着き始めた。

そして、10月にはGNAとLNAの代表団の間で、完全かつ恒久的な停戦合意が結ばれた。この協定において、軍事組織の最前線からの撤退、傭兵と外国人戦闘員のリビアからの撤収などが取り決められ、また合意の履行を確認するための政治的な枠組みであるリビア政治対話フォーラム(LPDF)の発足も予定された。

11月にチュニジアで開催されたLPDFは、2021年12月の国政選挙(議会及び大統領)の実施を合意し、それに向けたロードマップを策定した。2021年3月には、その選挙に向けたプロセスの一環として、国連の支援を受けて暫定政府として国民統一政府(GNU)が設立された。大統領評議会議長にムハンマド・ユーニス・メンフィ氏、首相にアブドゥル・ハミド・ムハンマド・ドベイバ氏が選出され、分裂した政府を統一することが目指された。GNAは新政府に権力を移譲、HORも新政府を承認し、リビア政治はようやく軌道に乗り始めたかに見えた。

首相に選出されたアブドゥル・ハミド・ムハンマド・ドベイバ氏(写真:Ministry of Defence of the Russian Federation / Wikimedia Commons [CC BY 4.0])

しかし、年末の選挙が迫る2021年9月、HORはGNUに対する不信任決議案を可決した。GNU側は暫定政権としての統治を続け、選挙は予定通り実施するとしていたものの、最終的に選挙は延期された。HORによるGNUの不信任はその一因であるが、立候補者や選挙方法についてのルールを定めることができなかったことや、そもそも大統領選挙を行うべきか否かというところにまで遡って、国内で合意が形成できなかったことも要因として指摘されている。国連はその後もリビアにおける国政選挙を実施するための計画を発表しているが、2025年3月現在、選挙が実施される見通しはない。

こうして国政選挙は実施されないままの状況が続き、そのもとで政府機関の分立が進んでいる。GNUはあくまで選挙実施までの暫定政権であるということからHORはGNUの解散を要求したが、首相のドベイバ氏はこれを拒否し政権にとどまり続けている。それに対して、HOR側は新たに独自の国民安定政府(GNS)を樹立したため、この2つの政権が現在でも対立を続けている。

このように、リビアでは政治の膠着が続き、それによって政治的・経済的な不安や治安上の問題が継続している。2025年現在でも、2020年に結ばれた停戦合意は有効ではあるが、散発的な武力衝突は各地で起こっている。リビアの武装勢力は大まかには2つの政府の傘下に入っているものの、全体として統率されているわけではなく、2011年にできた様々な武装勢力が現在でも存続しており、武装勢力同士の衝突も頻発している。2024年8月には、2つの政府間の緊張の高まりに応じて、それぞれの政権に結び付いた武装組織がその動きを強めた。これらの動員が大規模な衝突に至ることはなかったが、同時期に武装組織同士の対立による武力衝突のため首都トリポリで少なくとも9人が死亡した。

石油に左右されるリビア

これまで見てきたように政治情勢が不安定な同国にとって、収入源となっているのが石油や天然ガスなどのエネルギーである。リビアでは、政府収入と輸出の90%以上、GDPの約7割がエネルギー関連産業によって占められており、エネルギー資源が経済に与える影響は非常に大きい。そのため、とりわけ石油資源は、あらゆる政治勢力や武装勢力にとって重要なものであり、しばしば政争の道具になってきた。例えば、2022年に東部勢力がGNSを新たに立ち上げた際、GNU及びドベイバ首相に対して圧力をかけるために油田閉鎖が行われた。

直近のものでは、2024年8月に勃発した中央銀行総裁に関する問題が挙げられる。GNUによる中央銀行総裁のサディク・アルカビル氏の更迭方針が、HORやLNAによる猛反発に遭い、またHORは抗議のために自らの勢力が支配する油田を閉鎖したのである。リビアの油田の大半は、LNAのハフタル氏の支配下にあるため、こうした措置によりリビア全体が被るダメージは計り知れない。

争いの舞台となった中央銀行(写真:Hussein Eddeb / Shutterstock.com)

なぜ東部勢力はここまで強硬的な対応に出たのだろうか。それは、リビアの中央銀行が果たす役割の大きさにある。一般的に中央銀行は金融政策を実行する役割を担う。リビアの中央銀行はそれらの業務に加え、国営石油会社(NOC)が一元的に担っている石油生産から得られた収入を管理している。中央銀行はGNUの管理下にあるものの、東部勢力が支配する地域の公務員に対する給与も中央銀行から支払われている。リビアでは、国民の37%(労働年齢人口の72%)が公務員として政府に雇われている。こうした状況を含め、中央銀行総裁に関する人事は、どちらの政府にとっても極めて重要な問題である。

今回の紛争は、2024年9月に国連の仲介のもとで東西両政府が合意を結び、新たな総裁及び副総裁を指名することで終結した。東部勢力が行っていた油田閉鎖も解除され、石油生産も完全に再開された。現在のところ、合意は問題なく履行されているが、今後も安定した状態が続くかは注視が必要だろう。

移民・難民問題

政情不安が続くリビアでは、移民・難民に係る問題も深刻である。地中海に面しているリビアは、地理的に他のアフリカの国々とヨーロッパをつなげる位置にある。そのため、リビアには、その地理的条件と統治が行き届いていないという政治的条件が組み合わさって、地中海を渡ってヨーロッパを目指すアフリカ各地からの移民・難民の出発地点となっている。

リビアのこのような状況について、過去のGNV記事(アフリカの難民危機欧州連合(EU)の海上規制)も踏まえつつもう少し詳しく見ていこう。

リビアはヨーロッパに近いという地理的条件のみならず、アフリカ諸国のなかでは比較的裕福国だったということもあって、もともとアフリカ内の移民・難民の目的地の一つになっていた。それが前述したカダフィ政権の崩壊に伴い、リビアは紛争状態に陥った。しかし、中央政府が機能していないという状況は、むしろ国境を越えたいという移民・難民にとってはチャンスとなった。同時に密入国をサポートする業者や人身売買業者などのネットワークも拡大し、リビアからイタリアへ、海上経由で移動する人々は飛躍的に増加した。ただ、こうした移動方法は常に危険がつきまとい、リビア国内で拘留されたり、海上で遭難して亡くなる人々が多数発生した。

海上で救助されるリビアからの難民(写真:Brainbitch / Flickr [CC BY-NC 2.0])

ヨーロッパはというと、こうして到着する移民・難民に対して厳しい対策を取っている。EUは、リビアと連携して、移民・難民船の捜索・「救助」と送還を行ってきた。リビアを金銭的・技術的に支援することで、リビア国内に移民・難民を留めておく・押し戻す体制を作り上げてきた。そうしてリビアに連れ戻された人々なかには、財産を没収されたうえで各地の収容施設に入れられ、そこで強制労働や(性的なものを含む)虐待を受ける人も決して少なくない

地中海を横断する移民をブロックすることによって、確かにヨーロッパに流入する移民自体は減少したかもしれないが、その過程で暴力にあったり亡くなったりする人々の発生を防ぐことはできていない。例えば、2025年2月に国際移住機関(IOM)は、リビア南東部で発見された2つの集団墓地について公表した。人身売買業者を捜査している中で発見されたこれらの墓地の遺体は、移民・難民のものとみられ、一部の遺体には銃創があるという。移民・難民が受ける暴力を現した一例である。

リビアには、登録されているだけで8万人を超える難民が存在している。それ以外に存在するとみられる難民と庇護希望者を合計すると、およそ27万人がリビアに留まっている。難民の出身地はアフリカや中東各地から様々であるが、最も多いのはスーダンである。2023年4月に勃発したスーダン紛争により、スーダンでは2024年時点において1,410万人ものの避難民が発生している。スーダンとは同国の北西部で国境を接するリビアでは、2024年12月時点で国境地帯の小さな地域に毎日約400人が到着しており、難民への支援が喫緊の課題となっている。

まとめ

以上、リビアの複雑な政治情勢と様々な問題についてみてきた。

2つの政府が併存して存在していることは、統治において様々な形で混乱を引き起こしている。例えば、2023年に発生したリビア洪水においても、そうした混乱がみられた。2023年9月に暴風雨によって発生したこの洪水は、4,000人以上の死者と8,000人以上の行方不明者を出した。この洪水によって壊滅的な被害を受けたGNSの支配地域に位置するリビア東部のデルナでは、GNUの支配地域からの救援の立ち入りを地元当局が拒否し、それらの物資が届くまでに膨大な時間がかかったという。

ただ、これからも2つの政府状態は続くだろう。しかし、国連が推進するように中央集権的な政府を樹立することだけが唯一の解決策なのだろうか。諸外国にとっては交渉相手が一意に決まることが望ましいかもしれないが、すでにリビア国民は2つの政府という体制に適応して暮らしているという指摘もある。無理な統一は、武力衝突を招く可能性も高い。そうならないような形で、国民の不安を解消できるような対応策が求められる。困難な課題ではあるが、これからのリビア情勢にも注目していく必要がある。

0 Comments

Submit a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *