世界銀行と国際通貨基金:貧困の助長?

by | 2025年02月20日 | Global View, 世界, 経済・貧困

世界銀行(世銀)国際通貨基金(IMF)は、今日の世界経済において最も重要な開発・金融機関である。しかし1944年の設立以降、その活動と実績に対しては激しい議論が交わされている。世銀とIMFはともに、その活動対象国や地域では社会や環境に悪影響をもたらしていると非難されており、多くの識者や学者が両機関に対して構造改革や運営改革を求めている。中には、世銀とIMFの廃止や別の機関との代替を求めるもある。

2024年にアメリカの首都ワシントンD.C.で開催されたIMFと世銀グループの年次総会で、IMF専務理事のクリスタリナ・ゲオルギエバ氏は各国政府が裁量を持って優先的に決定できる事項として、①債務削減と次の金融危機への備えとしての財政上のゆとりの再構築、②雇用、税収、財政余力、債務の持続可能性の改善をもたらす成長のための改革の2つがあると説明し、IMFはより良い活動ができると世界にアピールした。一方、世銀のアジェイ・バンガ総裁は、世銀の運営を最適化し、経済的なインパクトをより重視したものにして世銀の融資能力を高めることで、「より良い銀行を構築する」と意気込みを見せた

どちらも在任中に改革することを示唆していたが、それぞれのメッセージは大きな驚きを与えるようなものではなかった。世銀とIMFは従来通りの業務を続けようとしているようだ。

「貧困を終わらせよう」。世界銀行の本部(写真:World Bank / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])

世銀とIMFについて

1944年に設立されたこの2つの機関は、もともとは第二次世界大戦からの復興を促し、世界発展のための国際経済協力を促進することを目的としていた。そして世銀は戦後復興計画に資金を提供する融資機関に指定された。しかし、2023年に世銀の総裁が述べたように、世銀の焦点はもはや経済復興だけにとどまらず、「住みやすい地球で、貧困のない世界を作る 」ことにまで拡大し、開発を優先するようにもなっている

 一方、IMFの役割は国際決済と為替レートの安定を促すことであり、また金融危機に陥った加盟国に短期的な融資を行うための資金を保持することであった。過去数十年間、IMFは加盟国に資金を貸し付けるだけでなく、経済危機に対処する方法について、強い影響力を持つがあくまで助言を行う財務管理者として、加盟国に寄り添ってきた。なお、20252月現在、IMFの貸付残高は約1,104億米ドルに上る。

しかし世銀とIMFの実績を見ると、上述したような公式な任務や使命に反して、両機関は低開発と人々の困難に関連していることがわかる。両機関は、低所得国の貧困や経済的苦難を解決するどころか、意図的に、あるいは本来の意図とは逆に状況を悪化させるような失策や戦略を行っているとして、一貫して批判されてきた。では。世銀とIMFはどのように世界の貧困を悪化させているのだろうか?その主な原因は、両機関の組織的構造と運営メカニズムにある。これらにより両機関は貧困や関連する社会政治的問題の解決に取り組まない、あるいはそもそも取り組むための動機すら失い、結果として支配的なメンバーの利益を優先する行動をとってしまうことが指摘されている。

世銀・IMF合同開発委員会で演説するデイビッド・マルパス世界銀行元総裁(写真:World Bank / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])

人権のない地帯

両機関はその法的構造上経済的な要素が独占的に考慮され、人権、特に「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」で規定されている、適切な生活水準を得る権利、飢餓から解放される権利、到達可能な最高水準の身体的及び精神的健康を享受する権利、教育を受ける権利などはその活動にほとんど関係しない。極度の貧困と人権に関する国連特別報告者は、2015年の報告書で世銀を「人権のない地帯」と評した

報告書は、世銀の法的枠組みには「政治的禁止」条項(第4条(10))があり、これがプロジェクトやプログラムに人権を組み込むことを妨げていると説明している。しかし同時に、政治的な考慮がこの点に影響を及ぼすこともある。欧米諸国は、人権への批判を利用して特定の国への開発融資を差し控えることがあり、借款を受ける国々は、人権を理由に自国の内政が干渉されることを警戒していると指摘されている。そのため世銀が権利に基づく開発アプローチに沿って行動するためのイニシアティブがいくつか導入されたものの、世銀の人権の考慮状況については依然として悲惨な状態が続いている

近年では、世銀は、ダム、発電所、高速道路などの巨大インフラプロジェクトへの融資の結果、何百万人もの社会から疎外された人々や先住民族の強制移住を容認したり、間接的に引き起こしたりしていると非難されている。ここで、世銀は巨大な融資を行う一方で、そのプロジェクトによって引き起こされる立ち退きを管理せず、立ち退いた人々のための代わりの住居の選択肢を提供することもないことも大きな問題とされている。法的枠組みの改革がなされない限り、世銀は人権を「普遍的な価値や義務というよりもむしろ厄介な感染症のように」扱い続けると指摘されている。

人権問題が指摘されてきた世界銀行の融資を受けたタジキスタンのログン・ダム建設の様子(写真:Sosh19632 / Wikimedia Commons[CC BY-SA 4.0])

IMFは、「政治的禁止」により人権を無視できると明言しているわけではなく、単に人権は自身の義務の範囲外だと主張している。IMFは、自らを純粋に技術的・金融的な組織とみなしており、その業務において政治的な配慮をすることを禁じている2003年、専門家グループは「世銀、IMFおよび人権に関するティルブルグ指導原則」を起草して両機関の人権に関する義務を定義したが、20年以上経った現在においても、IMF、世銀ともにその義務を認めていない

金銭主義的な組織構造

世銀とIMFの民主主義に欠けるガバナンス構造もまた、両機関の政策選択や政策提言に影響を与えている。両機関が設立されたブレトンウッズでは、世銀総裁はアメリカの国籍、IMF理事はヨーロッパの国籍の人物が務めるという、いわゆる「紳士協定」が結ばれた。以降、世銀とIMFのトップの人選がこの合意から外れたことはこれまで一度もなく、これはアメリカとヨーロッパの利害が常に両機関に反映されてきたことを示唆している。 

さらに、総会で193の加盟国すべてに1票ずつの投票権を与えている国連とは異なり、世銀とIMFは加盟国の株式と出資金に基づいて議決権を設定している。このシステムにより米国、日本、欧州諸国が議決権の配分を独占している一方で、低所得国は両機関で十分に代表されていない。例えば、IMFの加盟国173カ国は、そのほとんどが多額の融資を受けている低所得国であるが、議決権では1国につき平均で0.19しか割り当てられていない(※1)。最大規模の債務国の多くも、議決権の割り当てが低い。この力の不均衡を指してアパルトヘイトやマイノリティ支配の一形態と表現する論者もいる。国民の数を考慮すると、高所得国の人間に割り当てられた1票に対して、低所得国の人間にはわずか8分の1の票しか与えられていないことになる。この構造的な意思決定の偏りは、国際経済体制における低所得国の役割を事実上否定している。

地図はVemapsの世界地図。IMFのデータを元に作成。

世銀とIMFの行動と目的は、貧困問題よりも、グローバルな市場アクセスの拡大という支配的な高所得加盟国の利益をますます重視していると見なされるようになってきている。元世銀チーフエコノミストのジョセフ・スティグリッツ氏は、世銀とIMFが経済の万能薬として提供する4段階のプログラムの雛形(民営化、資本市場の自由化、市場ベースの価格設定、自由貿易)は、直面している経済問題を実際に解決することよりも、借入国の市場を開放することで外国資本の参入をより円滑にし、債権国や多国籍企業による一部の国内生産部門の奪取を促進することを優先していると指摘している。

スティグリッツ氏はさらに、このような戦略は、各国が財政赤字を削減し、経済の安定を回復し、未払い債務の支払いに資するとされる緊縮策を伴うものであると指摘している。その国の国民にとって緊縮財政は、すでに経済的圧迫に苦しんでいる状況でさらに福祉給付金が得られなくなることを意味する。したがって、IMFの「処方箋」により「IMF暴動」が起こることは容易に想像できる。

一部の識者はさらに、このような社会不安もまた、支配的なメンバーのアジェンダをさらに推進するための世銀やIMFの戦略の一部かもしれないと推測している。社会不安は資本逃避を促し、一部の産業では倒産に追い込まれ、資産価格を押し下げる。この状況は外国人投資家にとっては、安い価格で資産を買い取ることができるため好ましいものだと考えられる。 

最近の研究では、IMF2つの注目すべき傾向が確認されている。その傾向とは、西欧との外交・貿易関係が強い借入国に対しては、IMFが緊縮財政を求める可能性は低く、西欧からの多額の海外直接投資を受け入れている借入国に対しては、逆にIMFが緊縮財政を求める可能性が高くなるというものだ。

 金融危機への対応

こうした傾向の結果は、金融危機に対する世銀とIMFの対応にも見られる。IMFは、1980年代の中南米の債務危機と1990年代のアジア通貨危機に、そのプログラムの雛形に従って対応し、壊滅的な結果をもたらした。

IMF理事会(写真:International Monetary Fund / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])

1980年代、ラテンアメリカ諸国は、1987年までに債務が総額4,425億米ドルに膨れ上がり、その結果起こった債務不履行が金融危機を引き起こした。この金融危機は、貿易の停滞、大規模な雇用喪失、149%(1981-89年)から218%(1990-93年)という危険な水準にまで乱高下するインフレ率など、この地域で大きな経済不況をもたらした。この状況に対して世銀とIMFが救済に乗り出した。1983年から84年にかけて、IMFは総額90億米ドルを提供し、世銀は30億米ドルを貸し付け、債務不履行に陥ったラテンアメリカ諸国の債務を救済した。

しかし、これらの救済策には問題があった。両者とも「構造調整プログラム」(SAP)という形で条件を課し、借主に財政緊縮、市場と投資の自由化、民営化の積極的な推進を要求したのである。アメリカの経済学者ジェフリー・サックス氏は鋭く、そして簡潔にこの動きを次のように非難した。「1982年以来、IMFと債権国政府の基本戦略は…商業銀行が利払いを滞りなく行えるようにすることである」。

外部から押しつけられたこれらの政策は、経済的負担に苦しみ、その軽減のために政府からの補助を必要としている人々を考慮していなかったため、大きな批判を浴びた。結局これらの政策の結果は壊滅的だった。1980年代後半、サハラ以南のアフリカとラテンアメリカでは、債務危機とその管理の影響により、毎年50万人以上の5歳までの子供が死亡していたという悲惨な試算もなされている。

1990年代には、IMFはその雛形に従ってアジア通貨危機にも対応した。インドネシア、韓国、タイを中心とするアジア諸国の政府に360億米ドルを提供し、改革を支援したが、同時に経済開放と緊縮財政を行うよう圧力をかけた。インドネシアはこれに応じ、貧困層への食料・燃料補助金を廃止した。その結果、ジャカルタで大規模な暴動が発生した。2002年の報告書によると、この暴動で「1,200人が焼死し、8,500棟の建物や車両が焼失した」と主張されている。

それから10年あまり経った2010年、IMFは今度はヨーロッパの金融危機に直面した。ギリシャの3,100億米ドルにのぼる債務危機は、ヨーロッパの金融の安定を脅かした。ギリシャを救うため、IMFはその規則の一部を破り、史上最大の1,250億米ドルの救済パッケージを推し進めた。この中でIMFは、債務を支払う能力が明らかにない国には融資パッケージを提供しないという規則を無視し、融資パッケージの条件を部外者に決定させた。

ギリシャでの緊縮政策に対する抗議行動(2010年)(写真:Εφημερίδα ΠΡΙΝ / Flickr[CC BY-NC 2.0])

ブラジルの事務局長の次のコメントは、IMFの立場の根拠となりうるものを示している。「プログラムのリスクは計り知れない……それは、苛烈な調整を伴うギリシャ財政の救済ではなく、ギリシャの民間債務者、つまり主にヨーロッパの金融機関の救済とみなされるかもしれない」。これは、IMFが欧米の大手商業銀行の利益のために働いているとするサックス氏の前述の批判と対応する。

さらに皮肉なことに、経済危機と社会不安に陥っている国々は、どのように救済されるかについて何も発言できない。彼らは、世銀やIMFの資本を支配し、コントロールしている人々に制度上逆らうことができない。

 債務の負担者は誰?

ヒューマン・ライツ・ウォッチの最近の報告書によると、2020年から2023年の間に承認されたIMFの融資プログラムは、「公共支出の削減を課し、低所得者に不釣り合いな負担を強いる方法で税負担を引き上げる」というIMFの伝統的なアプローチに依存している。別のNGOのオックスファムはさらに、「IMFが貧困国に公共財への支出を促した1ドルに対して、緊縮財政を通じて4倍の支出を削減するよう指示した」と述べている

ここまでくるともはや驚きはないが、1986年から2012年までのデータから、IMF融資が「より多くの人々を貧困の連鎖に陥らせる」一因となっていることが明らかになっている。このことを象徴しているのが、サハラ以南のアフリカのケースである。その一因として、IMFの条件付き融資に伴う大規模な雇用喪失とインフレが挙げられる。例えば、1984年から1999年にかけてガーナで行われた国営企業の民営化という世銀とIMFの条件は、15万人以上の雇用喪失につながった。そして1981年から2001年にかけてこの地域でSAPが実施された後、11米ドル以下で暮らす貧困層の数は16,400万人から31,600万人へと倍増した。

また、サハラ以南のアフリカ最貧国が、1980年から2004年までの間に西側諸国の高所得国に債務支払いという形で約2,290億米ドルの資金を移転した事実にも悲劇があると識者は指摘している。そして依然として低所得国でも悲劇は続いている。2023年、世界の公的債務は過去最高の97兆米ドルに達した。衝撃的な数字は他にもある。 54の低所得国が所得の10%以上を債務支払いに費やし、人口33億人の48の低所得国が国民の教育や健康よりも債務利払いに費やしているという。

2024年に世界はIMFの条件付き融資に取り組んでいるケニアの状況に注目した。ケニアは流動性問題に対処するため、IMFから94,100万米ドルの追加融資を受け、その残高は30億米ドルに達し、IMFにとって第6位の債務国となった130億米ドル近い債務残高を持つケニアは、IMFの最大の債務国の一つでもある。

2022年、IMFの要求に従い、ケニア政府はトウモロコシ粉と燃料への補助金を廃止し、翌年には燃料への付加価値税を8%から16%に倍増させた。厳しい経済緊縮に反対する地元住民は首都ナイロビで大規模な抗議行動を組織した。

増税案に反対するデモ隊に破壊されたケニア議会のガラス(2024年)(写真:Abner Mbaka / Shutterstock.com)

ケニアに対するIMFの条件は、1980年代と1990年代の危機に対処するために採用した戦略を彷彿とさせる。2015年、IMFは「緊縮財政がギリシャに与えるダメージを認識できなかった」と認めたからだ。緊縮財政を肯定的に捉えているこの発言を見ると、ヨーロッパ以外の金融危機からの教訓についてはいまだにIMFは学んでいないようだ。ケニアは1980年代の中南米や1990年代のアジア通貨危機のような事態に直面する可能性がある。

 免責と説明責任の欠如

世銀とIMFのさらなる問題点として、損害を与えても免責される制度がある。他の国際機関と同様、世銀とIMFは、IBRD協定第7条およびIMF協定第9条に規定されている通り、司法手続きからの免責を享受している。そのため、私人は国内裁判所や国際裁判所に提訴する権利を奪われ、自分に対して行われた不正に対して意味のある救済を要求することができない。この絶対的免責は2019年に米国最高裁によって争われたが、両機関は訴訟からの絶対的免責を支持し続けている。

さらに、組織内に説明責任を果たす仕組みがないことが、不処罰の文化を生み出している。2010年以降、世銀もIMFも重役が関わる事件に悩まされている。2011年には、IMFのドミニク・ストロス=カーン氏がニューヨークのホテルでメイドに性的暴行を加えたとして逮捕された。元世銀のエコノミストで現コスタリカ大統領は、世銀での20年以上にわたる在職中に昇進を繰り返しながら、セクハラ行為をしていたとして告発された。このような性的不祥事の傾向は、世銀で長年続いており、広く懸念されている。最近の報告書では、「世銀の女性職員の4人に1人がセクハラを受けたことがある」と指摘されている。

大きなスキャンダルを起こしても、トップが無傷で済むケースもある。現職のIMF専務理事であるゲオルギエワ氏は、2017年に世銀のデータを操作して中国を優遇し、投資家にとってより魅力的な報告書にしたとされる事件に巻き込まれた後もポストを維持した。別のIMF理事であるクリスティーヌ・ラガルド氏は、2016年に過失と公的資金の不正使用で有罪判決を受けたが、同じくポストを維持し、処罰を免れた。

IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事(写真:International Monetary Fund / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])

これらの事件は、国際開発機関としての世銀・IMFの評判を傷つけ、データや政策アドバイスの権威ある情報源としての信頼性に疑問を投げかけるとともに、個人的利益や強力なロビー団体に取り込まれやすいという両機関の脆弱性を示した。

世銀とIMFの構造的・運営的メカニズムに実質的な改革がなされない限り、その他の公約は実効性のないただの言葉にとどまるだろう。そして世銀とIMFは、従来と同じ業務を続けて低所得国の貧困を悪化させ、社会的・環境的な状況を悪化させ続けるだろう。

※1 一国一票であれば、1国あたり約0.58%の投票権が配分される。 

 

ライター:Darren Mangado

翻訳:Seita Morimoto

グラフィック:MIKI Yuna

 

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