GNVは2018年以降、毎年12月に「潜んだ世界の10大ニュース」を発表している。多くの人々や地域・世界の仕組み、あり方に大きな影響を与えたにもかかわらず、日本の大手メディアがほとんど、あるいはまったく報じなかった事象を取り上げランキング化する企画である。
年が変われば、報じられなかった新たな重大ニュースを分析していくが、以前注目した事象がその後どうなったのかについても追い続けることも重要である。そこで今回の記事では、2023年にランクインした10大ニュースを個別に取り上げ、2023年の年末から2024年10月現在までの間にどのような展開があったのか、みていく。
第1位 G20諸国で化石燃料に対する補助金が4倍に急増
2023年のニュース:2023年の持続可能な開発に関する国際研究所(IISD)の調査によると、2022年、G20諸国が化石燃料に対して1兆米ドルを超える補助金を投入したことが明らかになった。これは、2021年に比べておよそ4倍に当たる。
【続報】2024年10月:2022年に世界で高騰していた化石燃料価格が落ち着くにつれ、化石燃料に対する助成金は2023年に大きく減少し、2024年以降も減少する見込みである。ただ、助成金の額は減少傾向にあるとはいえ、現在も2015〜2021年のレベルを大きく上回っているとされている。また、化石燃料に対する助成金以外にも、環境破壊を促進するような助成金が他にも増えているという報告もあり、現状のままでは世界で合意されている気候変動関連の目標の達成は見込めない。一方、石炭、石油、天然ガスへの需要は2030年までにピークを迎え、太陽光発電が増加し、持続可能なエネルギーの利用が化石燃料を上回っていくことが予想されている。
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炭鉱の様子(写真:Carol M. Highsmith Archive / Library of Congress [Public domain])
第2位 サウジアラビア国境警備隊による移民の虐殺、数百人が犠牲に
2023年のニュース:サウジアラビア国境警備隊が、イエメンとサウジアラビアの国境を越えようとしたエチオピア人移民・難民の集団に向けて無差別に発砲し、殺害してきたことが人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によって判明した。
【続報】2024年10月:サウジアラビア国境警備隊による移民・難民に対する無差別の発砲・殺害は2024年も続いていることが移民問題を研究している研究ネットワークの調査で明らかになっている。2024年4月に行われた同調査では、イエメンからサウジアラビアに越境しようとした移民・難民が機関銃などで殺害されたと帰還移民・難民が証言している。ただし、犠牲者に関する統計を集め、確認することができていないため、このような事件の増減傾向は明らかになっていない。また、これらの人権侵害に対する他国の制裁もみられていない。例えば、2024年8月、アメリカはイエメン紛争をめぐり一時的に停止していたサウジアラビアへの攻撃性兵器の輸出を再開している。
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帰還した移民・難民(写真:Regional Migrant Response Plan / Flickr [CC BY 2.0])
第3位 世界の教師不足が4,400万人に
2023年のニュース:現在、世界には学校に通えていない子どもが8,400万人もいると推定されている。原因のひとつとして教師不足が挙げられる。2023年10月の国連教育科学文化機関(UNESCO)の発表によると、世界で4,400万人の教師が不足しているという。
【続報】2024年10月:UNESCOの発表から1年、教員不足に関する新たなデータや本格的な対策の導入などは発表されていない。だが、この問題について国連などからいくつかの報告書が発表されている。例えば、国連事務総長が立ち上げた教職に関するハイレベル・パネルは2024年2月、教員不足の改善のための包括的な提言を発表している。その中でも、教育のための財源の増加、教職員への給料・労働条件の改善の必要性が特に強調されている。また、2024年10月にUNESCOは中等教育における教師管理に関するガイドラインを発表している。その他に、教職員の労働組合の世界連盟が2024年7・8月に大会を開催し、教員不足について警鐘を鳴らしている。
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インドでの学校の様子(写真:Global Partnership for Education / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
第4位 イラク、100年間で最悪の水不足
2023年のニュース:イラクでは、ここ100年間で最悪の水不足が起こっている。この水不足は、農民の約60%に影響を与えていると言われている。具体的には耕地が大きく減少し、家畜や魚が死亡するなどの被害が出ている。
【続報】2024年10月:イラクでの記録的な水不足は2024年2月まで続いたが、3月以降は雨量が大きく増加し、水不足は緩和された。ただ、豪雨による洪水被害が発生する地域もあった。気候変動が進む中、より長期的に水不足を解消するには、貯水能力や水管理の向上の必要性が指摘されている。また、イラクに流れる河川の上流及び支流に位置するトルコやイランとの水量の分配についての交渉は進んでおらず、イラク政府の関係者が失望を表明している。
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空から見たイラクのモースル・ダム(写真:Rehman Abubakr / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
第5位 結核薬のジェネリック製薬が可能に
2023年のニュース:2023年9月、世界の中低所得国134カ国で多剤耐性結核に対して使われる結核薬ベダキリンのジェネリック製薬が可能になった。世界最大の製薬会社、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が結核薬ベダキリンの特許を放棄したのだ。
【続報】2024年10月:2024年に入ってからも、結核治療のコストの引き下げにつながる治療薬ベダキリンに関する特許放棄がさらに進んだ。7月5日、南アフリカの競争委員会とJ&Jとの合意のもと、J&Jはベダキリンそのものではなく、その活性成分である物質にかかる特許(二次的特許)を放棄することとなった。また、同じ日にインド特許庁は小児製剤ベダキリンに関するJ&Jの特許申請を却下した。他方で、世界保健機関(WHO)は2024年8月に結核治療に用いることができる4つの新たな治療計画を推奨した。しかし、そのうちの2つには日本の製薬会社、大塚製薬が特許を未だ所持するデラマニドという有機化合物が使用されており、過度に高い価格設定が問題視されている。
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結核患者(写真:Pan American Health Organization / Flickr [CC BY-NC 2.0])
第6位 アフリカ初の気候サミット開催
2023年のニュース:2023年9月、史上初のアフリカ気候サミットが開催された。その背景には、年々拡大する気候変動による影響がある。アフリカの炭素排出量は、現在までの世界の積算炭素排出量のうち、たった3.8%に過ぎないのにもかかわらず、気候変動による被害を大きく受けてきた。
【続報】2024年10月:2023年のサミットで採択された「ナイロビ宣言」はアフリカ大陸内外の政府などに様々な行動を呼びかけており、それに呼応していくつかの動きがみられている。例えば2023年12月には、アフリカにおける再生可能エネルギーのための加速パートナーシップ(APRA)が発足しは2024年10月に再生可能エネルギーの開発および導入を増加させるための投資フォーラムを開催した。しかし、アフリカでの再生可能エネルギー・プロジェクトの大規模な導入は、資金調達の機会不足によって厳しく制限されている。そのような状況下において、大量の化石燃料を利用し経済発展を成し遂げた高所得国に資金提供の責任があるという声が高まっている。
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太陽光発電、ルワンダ(写真:GPA Photo Archive / Flickr [CC BY-NC 2.0])
第7位 EU、非OECD諸国へのプラスチック廃棄物輸出禁止に合意
2023年のニュース:2023年11月17日、欧州連合(EU)議会は廃棄物輸出規則を更新し、経済協力開発機構(OECD)諸国以外への非有害プラスチック廃棄物の輸出禁止についての暫定協定に同意した。
【続報】2024年10月:2024年5月より、廃棄物輸出に関する新規則が発効した。OECD非加盟国へのプラスチック廃棄物の輸出は、2026年11月21日から2.5年間禁止される。その後は、新規則に従ってプラスチック廃棄物の輸出を再開することができる。しかし2024年に入ってから、EU諸国からのプラスチック廃棄物の輸出は増えている。2024年上半期は前年の統計に比べ16%増えており、約74万トンもの廃棄物が他国に輸出されている。その大半はトルコ、マレーシア、インドネシア、ベトナムに運ばれている。世界的にプラスチックの生産と使用が今後も大幅に増加すると見込まれる中、廃棄のみならず、生産と使用に関する制限が急務となっている。
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廃棄されたプラスチックゴミ(写真:Gaurav Ranjitkar / Pexels [Pexels License])
第8位 ブルキナファソで紛争・テロが激化
2023年のニュース:ブルキナファソでは、2015年から続く武力紛争が激化している。この紛争は、隣国マリから武装勢力が侵入してきたことで始まり、以降1万7,000人以上が死亡しているが、2022年以降死者が急増している。
【続報】2024年10月:経済・平和研究所(IEP)の2024年版の報告書によると、2023年、ブルキナファソは世界でテロによる影響を最も大きく受けた国であった。世界で発生したテロによる死者の4分の1がブルキナファソで発生したという。2024年に入ってからも状況が改善されているとはいえない。例えば、8月24日には、アルカイダ系の武装組織による攻撃で約200人(主に一般市民)の命が奪われた。ブルキナファソ政府は同様の安全保障上の問題を抱える隣国であるマリとニジェールとの政治・軍事的連携を進めている。しかし、この3カ国の政権はともにクーデターで政権をとった軍事政権であるということもあり、他国からの支援が限られている。ブルキナファソ政府による対策および隣国との連携の成果はまだあがっていないようだ。
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訓練中のブルキナファソ軍の様子(写真:Defense Visual Information Distribution Service / Picryl [Public domain])
第9位 国連世界食糧計画(WFP)の食料支援が減少
2023年のニュース:2023年9月、WFPは資金不足により世界での食料支援が急減しており、緊急の食料不足に陥る人が今後12ヶ月で50%増加する可能性があることを発表した。世界では現在、4,000万人が緊急レベルの飢餓に陥っている。
【続報】2024年10月:2024年に入ってからもWFPは資金不足の問題を抱え続けている。バングラデシュでのロヒンギャ難民への食料支援には増加がみられたものの、紛争を抱えるイエメンやケニアに避難している難民などに対する食料支援は削減されている。ほかには、南部アフリカ地域で広がる干ばつ被害に対する資金調達においても苦戦している。また、2024年8月の時点で、前年の同時期に比べ、最も深刻な食糧危機である飢餓状態に分類されている人数は世界で190万人へと倍増した。これは主にスーダンとガザ地区における武力紛争が原因となっている。一方で、同時期にアフガニスタン、ケニア、コンゴ民主共和国などでは収穫量の上昇などの影響で2023年に起こっていた食糧不足のピークから状況が改善された。
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WFPの食料支援、ラオス(写真:EU Civil Protection and Humanitarian Aid / Flickr [CC BY-SA 2.0])
第10位 アフガニスタンでのケシ栽培が95%減少
2023年のニュース:2023年、アフガニスタンでは、ヘロインやアヘンといったオピオイド系麻薬の原料となる植物であるケシの栽培が95%減少した。この理由は、2021年に政権を奪還したタリバン政権が、2022年4月にケシ栽培を禁止し、取り締まりを行ったためである。
【続報】2024年10月:タリバン政権によるケシ栽培の禁止令及び取り締まりは概ね維持されているようだ。しかし、農家にとってケシに代わる換金作物へのシフトの兆しはなく、持続可能な状況ではないという指摘もある。農家による抗議デモも報じられている。一方、世界でのケシが原料であるヘロインなどのオピオイド系麻薬の供給は減っていないとされている。その理由のひとつとして、禁止令までの間にアフガニスタンで豊作が続き、現在もその備蓄があることがあげられている。つまり、栽培が止まっていても輸出は続いているという。その他に、紛争が激化するミャンマーでのケシ生産が現在も増え続けていることも理由にあげられている。
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アフガニスタンの農場の様子(写真:Canada in Afghanistan / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
GNVでは、2024年12月、2024年の10大ニュースを発表する予定である。
ライター:Virgil Hawkins
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