世界各地の水害はどのように報道されているのか?

by | 2024年10月17日 | News View, 世界, 環境

2024年、大雨・洪水によって世界各地の国・地域において甚大な被害が出た。だが、すべての水害が報道されたとは言えない。

日本の大手新聞(朝日・毎日・読売新聞)において、災害発生時から2024年10月12日までの間に1件でも取り上げられた水害は以下のようなものだ。アメリカのフロリダ州は、9月下旬から10月にかけて2つの大規模なハリケーンに襲われ、合計で250人の死者が出た。ハリケーンの被害を受けた地域の経済的なダメージも大きく、一連のハリケーンにより5,000億米ドル近い損失が出る見込みだという。ネパールでは首都カトマンズとその近郊において、9月27日から72時間以上にわたって雨が降り続けた。カトマンズは水没した地域も多く、9月30日時点で200人以上の死亡が確認されている。また、日本の石川県能登地方では、9月下旬に観測史上最大の豪雨に見舞われ、14人の死者が出ている。能登地方では2024年1月1日に最大震度7の地震によってすでに大きな被害を受けており、復興の遅れが懸念されている。

一方で、ナイジェリア、イエメン、バングラデシュ、中央ヨーロッパ、モロッコなどにおいても、2024年に入ってから洪水によって大きな被害に遭っているのにもかかわらず、日本の新聞において全く報道されていない。これらの水害についての詳細にも触れつつ、世界各地で発生している水害は日本のメディアにおいてどのように報道されているかについて、他の自然災害についての報道とも比較しつつ見ていく。

2023年9月、嵐によって破壊されたリビアの建物(写真:МЧС России / Wikimedia Commons [CC BY 4.0])

2023年の災害状況について

報道分析に入る前に世界で起こっている様々な災害の現況について見ていく。ここでは、2023年の1年間に起きた災害について振り返ってみる。

以下のグラフで使用しているデータは、災害データベース(EM-DAT)から引用している。EM-DATとは、世界184か国を対象に、1900年以降に発生した自然災害を記録しているデータベースである。自然災害は、干ばつ、地震、高温、洪水、土砂災害、雪崩、火山、火災に分けられている。

EM-DAT によると、2023年の災害発生件数は399件、被災人口は9,310万人、災害による死者数は86,473人にのぼるという。

以下のグラフが示すように、発生件数は、洪水、嵐、地震、雪崩の順で多く、洪水と嵐の発生件数が突出している。被災人口は、洪水、干ばつ、地震、嵐の順で多く、発生件数と被災人口の傾向がおおむね一致している。一方、死者数は、地震、嵐、洪水の順で多い。2023年2月にトルコとシリアで起きた地震により5万人以上亡くなったこともあり、地震が災害発生件数に対して桁外れに死者が多くなっている。

2023年に起きた災害について、被害規模が大きいものをいくつかピックアップしてみていこう。

2023年に起きた災害のなかで最も多くの死者を出したのが、2月6日にトルコで発生した地震である。トルコと隣国のシリアにおいて、合計で56,000人もの死者を出し、1,800万人が被災したという。9月にはリビアで大雨によりダムが決壊し、大洪水が発生した。リビアでは、一連の災害により、8,000人の行方不明者を含め、12,352人の死者が出た。コンゴ民主共和国では、5月に集中豪雨が発生し、各地で堤防の決壊と土砂災害が起こり、約450人の死者と2,500人の行方不明者が出た。モロッコではマグニチュード6.8、アフガニスタンではマグニチュード6.3の地震により、それぞれ2,946人、2,445人が亡くなった。また、モンスーンの時期の大雨と洪水によってインドでは1,529人が、東アフリカを襲ったサイクロンによってマラウイでは、1,209人が命を失った。

2023年の災害についての報道分析

ここまで見てきたように、2023年、世界各地でたくさんの災害が起こり、大きな被害をもたらした。では、それらの災害はどのように報道されているのだろうか。ここからは災害報道の実情を見ていきたい。

今回は、2023年の読売新聞の国際報道について調査した(※1)。先に挙げたEM-DATによる災害の分類に従って、災害ごとの報道件数を以下のグラフに示している。なお、雪崩については日本以外の場所における発生を主題とした報道がなかったため、0件としている。

データによると、2023年の読売新聞の国際報道における災害報道は、地震と火災で大半を占め、それ以外はわずか数パーセントしか報道されていないことが分かる。洪水や嵐のような風水害や干ばつは、被災人口や死傷者の多さにもかかわらず、ほとんど報道されていない。

これは過去のGNV記事で触れているように、地震は日本において「身近」であることが理由として挙げられる。マグニチュード6.0以上の地震のおよそ2割は日本で発生しており、「地震大国」と呼ばれるほどである。日本国内で関心が高い災害であるから、国際報道における報道量が多くなっていると考えられる。また、2023年の地震報道の7割を占めているトルコで起きた地震は、死者数が圧倒的に多い災害であったことも一因として挙げられる。

また、火災についての報道が多いのは、火災の報道のうち85%ほどをアメリカのハワイにおけるものが占めていることが理由として考えられる。2023年8月8日、ハワイのマウイ島で発生した火災により、128人が亡くなり、約55億米ドルの経済損失が出た。これは、2023年に発生した火災のなかでは最も被害規模(死者数、経済損失)が大きく、それ故に大きく報道されたと考えられる。ただ、日本の報道において、そもそもアメリカでの出来事は常に大きく注目されている点も見過ごせない。ハワイは日本からの訪問先として人気であり、そのような場所で起きた災害は注目度が高くなったと推測できる。ほかの火災としては、2023年7月下旬にアルジェリアで大規模な火災が発生し、34人が亡くなったが、こちらは1件も報道されていない。

洪水・大雨に限った報道分析(10年分)

さて、ここからは洪水や大雨などの水害について、より詳しく報道の傾向を見出だすために調査期間を延長してデータを見ていく。

以下のデータは、2014年10月1日から2024年9月30日までの10年間の読売新聞の国際報道において、洪水や大雨などの水害についての報道量を調べたものである(※2)。集計したデータを地域別(※3)と国別(※4)に分けてグラフに示している。

地域別の報道量では、報道量が多い順に、アジア、北アメリカ、中南米、アフリカ、ヨーロッパ、オセアニアと並んでいる。国別の報道量では、アメリカ、中国、タイ、フィリピン、リビア、北朝鮮、バヌアツの順で多くなっている。

国別の報道量がこうした並びになっている理由としては、そもそもの水害に関する報道の少なさと特定の1つの災害に報道が集中していることが挙げられる。水害に関する報道の多くは、1つの災害に対して1、2件の報道のみで終わっている。継続して被害について報じることは少ない。アメリカや中国に関する報道が多いのは、ハリケーンや豪雨、台風による被害が毎年のように報道され、被害についても比較的詳しく報道されていることが理由として挙げられる。フィリピンもこれらの国と似たような形で報道されており、2014年の台風被害については特に重点的に報道されているものの、それ以外の台風被害についても2、3年に一度ずつ報道が行われている。

一方、タイ、リビア、バヌアツについては、特定の災害について十数件報道があった結果、報道量が多くなっている。

タイは2018年に起きた洞窟事故についての報道が、20件中18件を占めている。この洞窟事故の概要は、雨季になると浸水する洞窟に入ってしまい、閉じ込められたサッカチームの少年らが2週間かけて救出されたというものだ。過去にGNVで触れているように、この事故についての報道は事故が起こってから1週間経ってから始まっている。事故の被害者の生存が確認され、そこからの「救出劇」に注目が集まっていると考えられる。

リビアは2023年の洪水についての報道が14件中14件を占めている。2023年9月10日と11日、リビア東部で大雨が降り、2つのダムが決壊したことにより、約8,000人の行方不明者を含め、12,352人の死者が出た。この洪水は先に触れたように、2023年に起きた災害の中で死者数が2番目に多く、そういった被害規模の大きさが報道につながった理由だろう。また、今回の洪水は、死者や行方不明者が段階的に判明するほかの洪水とは違って、ダムの決壊により一瞬にして多くの人が亡くなったというセンセーショナルな出来事があったというのも、報道量が多くなった一因として考えられる。

バヌアツは2015年のサイクロンについて盛んに報じられている。12件中12件がこのサイクロンについてである。このサイクロンでは、バヌアツのすべての州が被害を受け、被災人口は16万人以上、16人の死者が出た。このサイクロンは、サイクロンそのものは強烈なものでありインフラなどへの被害は甚大だったにも関わらず、死者数が少なかったことが後に注目されたが、読売新聞が注目したのはそういった理由ではない。2015年3月、このサイクロンが発生したとき、日本の宮城県仙台市で開かれていた国連防災会議に、当時のバヌアツ大統領やバヌアツ赤十字社関係者が出席していたからである。そして、それ以外にはバヌアツの水害についての報道は一切なく、2023年3月にバヌアツに2つのサイクロンが上陸し、25万人以上が影響を受けたことはまるで伝えられていない。

ただ、報道されない国々での水害がピックアップされることが時折あったとしても、全体としては報道されない水害のほうが多い。例えば、大雨と堤防の決壊により約450人の死者と2,500人の行方不明者が出た2023年5月のコンゴ民主共和国の洪水や2023年6月から9月のモンスーンの時期の複数回にわたる大雨の結果1,500人以上が亡くなったインドの水害は、読売新聞において一切報じられていない。読売新聞以外の新聞では、毎日新聞が2023年5月10日「コンゴ:コンゴ民主で洪水、400人死亡」、朝日新聞が2023年5月8日「コンゴ民主洪水、203人死亡」という記事において、コンゴ民主共和国で起きた洪水について触れている。ただ、文字数はどちらの記事も100~300字ほどであり、コンゴ民主共和国で起きた災害の全容を伝えるにはあまりにも少ない。また、2023年にインドで起きた水害についてはどの新聞社においても触れられておらず、「インパクトのある」大きな水害が起こらず、小さな水害の積み重ねにより多くの人が亡くなったことが報道されていない理由のひとつとして考えられる。

2023年5月に発生したコンゴ民主共和国での洪水(写真:MONUSCO Photos / Wikimedia Commons [CC BY-SA 2.0])

2024年の洪水・大雨被害

冒頭で触れたように、2024年においてもすでに10月中旬までに世界各地で水害が発生している。9・10月とアメリカ南部を襲った2つのハリケーンについては、災害発生時から2024年10月12日までにおいての大手新聞3社合計で、それぞれ16件、10件の記事があった。しかし、それ以外にも規模が大きかったにもかかわらず、報道されなかった洪水もある。ここでは、そのうちのいくつかのものをピックアップして紹介する。なお、各水害についての報道量は、災害発生時から2024年10月12日までの期間において、読売新聞・朝日新聞・毎日新聞の各社のデータベースで調べたものである。

ナイジェリア

(読売新聞:0記事、朝日新聞:0記事、毎日新聞:0記事)

2024年9月9日、ナイジェリア北東部のボルノ州において、大雨によりアラウ・ダムが決壊した。このダムの決壊により町の大部分が浸水し、およそ40万人の住民が避難を余儀なくされた。ナイジェリアでは、通常4月から10月にかけて雨期に入るが、その雨が気候変動によって深刻化していると考えられている。ナイジェリア全土では、2024年の雨季では大雨と洪水により170万人以上が何らかの影響を受け、311人が命を落とした。

国際連合人道問題調整事務所(OCHA)が10月7日に出した報告書によると、洪水被災者の帰宅が進み、避難所で暮らす人々は減っているという。ただ、ナイジェリアではこのダムの決壊を含む数々の洪水の影響で、農地が破壊されており、今後食糧不足がより深刻になると懸念されている。また、洪水による汚染された水源の拡散や人々の移動の影響で、コレラなどの病気の発生リスクが高まっているという。

イエメン

(読売新聞:0記事、朝日新聞:0記事、毎日新聞:0記事)

イエメンは、毎年4~5月と7~9月に雨期に入る。2024年は6月下旬から8月上旬にかけて特に大雨に見舞われた。複数のダムが決壊した地域もあり、地域社会へのダメージは計り知れない。イエメン赤新月社の報告によると、一連の大雨・洪水により、約800万人が何らかの形でリスクにさらされ、17,000件を超える家屋やシェルターが破壊されたという。8月末までの時点で少なくとも97人が死亡している。

GNVでも過去に報道してきたように、イエメンでは2014年から続いてきた紛争の影響で、多くの市民が脆弱な状態に置かれており、人道危機が発生している。もともと脆弱な状態にあった人々が、洪水によって生活基盤を失ったり、病気に感染したりするなど、より大きな被害を受けることが懸念されている。例えば、国連人道問題調整事務所(OCHA)は洪水によってコレラがこれまで以上に蔓延するだろうと指摘している。

バングラデシュ

(読売新聞:0記事、朝日新聞:0記事、毎日新聞:0記事)

インド、パキスタン、バングラデシュなどの南アジア諸国では、毎年6~9月ごろにモンスーンの時期に入り、大雨や洪水に見舞われている。ただ、近年は気候変動の影響で、モンスーンの時期のがより激しくなっているという。

バングラデシュ東部では、2024年8月下旬、大雨により洪水が発生した。バングラデシュでは、5月と6月にすでに大雨により大洪水に見舞われていた。8月の大雨では、約500万人が何らかの形で洪水の影響を受けており、70人の死者が出ている。この洪水は過去30年間で最悪のものとみられている。また、インド政府による事前通告なしのダム放水がバングラデシュでの洪水を悪化させたという主張もあり、今後のバングラデシュとインドの関係悪化が懸念される。

これら一連の大雨と洪水は、バングラデシュに避難しているロヒンギャ難民にも大きなダメージを与えている。ロヒンギャ難民キャンプでも鉄砲水や地滑りが発生しており、すでに脆弱な状態に置かれている人々がさらに追い打ちをかけられている。

中央ヨーロッパ

(読売新聞:0記事、朝日新聞:0記事、毎日新聞:0記事)

2024年9月中旬、中央ヨーロッパ・東ヨーロッパを強烈な豪雨が襲った。オーストリア、チェコ、ポーランド、ルーマニアなどの地域は前例のない大雨に見舞われ、水没した町もいくつもある。この大雨と洪水の影響で、少なくとも24人が死亡したとみられている。

今回の大雨に限らず、ヨーロッパでは気候変動の影響で異常気象が起きており、熱波などにより各地で様々な被害が出ている。雨に関していえば、気候変動により極端な降雨が増えるようになるという。それに伴う洪水被害の深刻化も懸念されており、気候変動の阻止が喫緊の課題となっている。

スロバキアとハンガリーの国境付近を流れるドナウ川(写真:Bratislavský kraj (BSK) / Flickr [CC BY 2.0])

モロッコ

(読売新聞:0記事、朝日新聞:0記事、毎日新聞:0記事)

9月上旬、モロッコ南東部を記録的な豪雨が襲った。モロッコの砂漠に存在するイリキ湖は、この大雨の影響で半世紀ぶりに水が満ちたという。豪雨により被害を受けた地域の一部では、当該地域の年間平均降水量をこの集中豪雨が起こった2日の間で超えてしまった。この大雨により、少なくとも18人が死亡している。

将来の水害を阻止するために

世界各地で起こっている洪水・大雨などの水害が報道されていない現状についてみてきた。

本記事内で触れただけでも、ナイジェリア、イエメン、バングラデシュなどにおいては、洪水によりもともと脆弱な状態にあった人々がより一層危険な状態に追いやられていることがわかる。洪水・大雨は、人々の生活基盤や農地を破壊し、感染症を蔓延させ、人々の混乱と不安を増す。しかし、そのようなことが世界各地で起こっていることは、ほとんど報道されていない。

気候変動により降水量が増加し、より深刻な洪水が引き起こされている。報道機関は気候変動の問題について国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)を集中的に報道しているが、世界で実際にどのような災害が起きているのか、どれだけの人々が影響を受けているのか、そして、なぜそのような災害が起きるようになったのか、といった視点での報道もより必要になってくるのではないだろうか。

※1 読売新聞データベース「ヨミダス」において、2023年1月1日から12月31日までの間の朝刊・夕刊、国際、全国版において、下記のキーワードを検索し、自然災害が主題となっている記事をカウントした。複数の分類にまたがる場合には、1を当該記事が属する分類の数で割った数字でカウントしている。
「干ばつ OR 旱魃 OR 干魃 OR 乾燥」「地震 OR 震災 OR 揺れ OR 振動」「気温OR 温度 OR 高温 OR 熱波」「洪水 OR 水害 OR 氾濫 OR 浸水 OR 高潮」「土砂崩れ OR 崖崩れ OR 山崩れ OR 土砂災害 OR 地滑り OR 地すべり」「雪崩」「嵐 OR 台風 OR 暴風 OR 豪雨 OR 竜巻 OR ハリケーン OR 大雨 OR 降水 OR サイクロン」「噴火 OR 火山」「山火事 OR 森林火災 OR 林野火災 OR 火災」

※2 読売新聞データベース「ヨミダス」において、2014年10月1日から2024年9月30日までの間の朝刊・夕刊、国際、全国版において、下記のキーワードを検索し、自然災害が主題となっている記事をカウントした。複数の地域または国にまたがる場合には、1を当該記事が属する地域または国の数で割った数字でカウントしている。
「洪水 OR 水害 OR 氾濫 OR 浸水 OR 高潮 OR 嵐 OR 台風 OR 暴風雨 OR 豪雨 OR 大雨 OR 降水 OR ハリケーン OR サイクロン」

※3 地域は、UNSD(United Nations Statistics Division、国連統計部)の基準に従い、アジア、アフリカ、オセアニア、ヨーロッパ、北アメリカ、中南米の6地域に分けている。

※4 調査期間中の水害に関する報道について、その報道量が10件を超える国については図で個別の国名を示している。

 

グラフィック:Ayane Ishida

 

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