独立系メディアとは?

by | 2024年08月1日 | News View, 世界, 報道・言論

ほとんどの国の報道機関は大企業によって独占されており、そこで行われてる報道活動は利益追求を伴うビジネスの一環である。各国政府もまた、国営メディアや公共メディアと呼ばれるものを通して、報道の制作と配信に大きな役割を果たしている。

しかし、こうした報道機関が、自国や世界について偏りのかかっていない情報を人々に提供できるかどうかは、しばしば疑問視されている。世界中でメディアの多様性とメディアの自由度のレベルが低下していることを考えると、特に懸念要因であるだろう。世界の多くの国々では、ここ数十年の間に、合併や買収によってますます少数の企業に報道活動が集中するようになった。さらに、近年の傾向として、メディアに対する政治的影響力のレベルが高まっている

このような傾向の中、メディアを構成するアクターのなかには、あまり注目されない第三のグループがある。このグループは営利目的や国家権力の影響を受けにくいとされ、「独立系メディア」として知られている。世界中に存在しているが、その規模は比較的小さい。新聞や雑誌、地域のコミュニティラジオ局やポッドキャスト、オンライン・メディアやソーシャル・メディア上のチャンネルなどで活動している。

上に挙げた懸念すべき傾向を考えると独立系メディアのような報道機関は、報道が提供する情報環境においてますます重要な役割を担っている。独立系メディアとは何であり、どのような課題に直面しているのだろうか?それがこの記事のテーマである。

電子メディアのジャーナリスト、パキスタン(写真:ILO Asia-Pacific / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])

独立系メディアの定義

独立系メディアは、商業メディアや国営・公共メディアとは区別されると考えられているが、明確な定義は必ずしも単純ではない。原則的には、独立系メディアとは利益や国家権力に屈しないメディアであるが、これが実際に何を意味するかはあまり明確ではない。問題は、独立性を保証するメディア組織にはどのような特徴があるのか、ということだ。

人にとっては、その区別は明確である。たとえば、アメリカを拠点とする非営利報道機関のスタッフの言葉を借りれば、それは「広告なし、ペイウォールなし、企業や政府からの資金提供なし」を意味する。この定義は、独立系メディアが非営利団体の一種であることを示唆している。組織を維持するために必要な収入は、読者・視聴者からの購読料や個人などからの寄付、あるいは報道活動とは直接関係のない資金調達活動という形で得られるものもあるかもしれない。

また、国家権力に対する監視や批判を行うなど「番犬役」として活動し、他者からは「独立系メディア」と呼ばれながら、告収入や株主からの出資に依存する報道機関も少なくない。インドのオンライン報道機関ニュース・クリック(Newsclick)、フィリピンのラップラー(Rappler)、ザンビアの今はなきザ・ポスト(The Post)紙などは、そうした報道機関の例である。このような報道機関は、企業としての利益追求が報道の内容に影響を与えるのを防ぐことを目的とした厳格な規則や内部協定を作ることがある。

その一方で、事実上独立系ではないにもかかわらず、自らを「独立系メディア」と呼ぶことを選ぶ商業メディアもある。世界の多くの国々で報道機関に対する信頼が低下している中、自らを「独立系メディア」と名乗ることは、自社の評判を高める狙いが考えられる。つまり、信頼を得るためのブランディングの一環として利用される場合である。

ベトナム戦争時にアメリカで発行された独立系新聞、クイックシルバー・タイムズ紙(写真:Washington Area Spark / Flickr[CC BY-NC 2.0])

また、独立系であることが必ずしも不偏不党であることを意味するわけではないことにも留意すべきである。報道というのは必然的に誰かの視点から作られるものであり、真に客観的、中立的であることはあり得ない。しかしそんな中でも、企業や国家の影響下から解放されることが、報道の独立性の鍵だと考えられる。

独立系メディアを表すのによく使われる別の関連用語に、オルタナティブ・メディア(alternative media:代替的なメディア)がある。これは一般的に、大企業や国家が運営するいわゆる「主流メディア」と区別するために使われる。厳密に言えば、この区別は独立性というよりも、一般大衆の多くが閲覧する主流メディアに対して、よりリーチの少ない報道機関として捉えられ、情報環境における独占の度合いに関するものである。また、これらの報道機関が、商業メディアや国営メディアが提供するニュースとは異なる報道コンテンツや異なる視点を提供していることも示唆している。

独立系メディアの重要性

世界人口の80%は報道の自由がない国に住んでいると言われている。そのような国では、権力者や富裕層に異議を唱えるような報道活動は極めて困難であり、しばしば危険を伴う。報道関係者は暴力や逮捕、報道機関としては閉鎖などのリスクにさらされることもある。しかし、「報道の自由」が保障されているといわれる国のメディアはどうだろうか?

「報道の自由」があれば、企業や政府(または政府関連機関)に運営されているメディアが、その影響から独立した報道活動を行うことは、原理的には可能である。たとえば、商業メディアでは、販売や広告などを取り扱う部署と、報道の制作や編集活動を扱う部署が分離されることがメディアの基本原則とされてきた。公共メディアについても、編集方針の独立が少なくとも紙上では確保されていることが多い。たとえばイギリスの公共放送BBCの憲章が、政府からの編集方針の独立を保障している。

国際通貨基金と世界銀行の会合で写真を撮るジャーナリスト、日本(写真:World Bank Photo Collection / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])

しかし、現実は異なる。たとえば近年の商業メディアでは、商業活動と編集活動の分離原則がますます損なわれ、公共の利益よりも収益性が重視されるようになっていると言っても過言ではない。記事の閲覧数やクリック数を稼げるかどうか、あるいは広告主の利益を満たせるかどうかが、ある出来事がニュースになるかどうかを決める重要な要素になりつつある。また、国営・公共放送においては、政府の影響は避けられないようだ。たとえばBBCでは憲章上の独立性が保障されているが、実際はイギリス政府はBBCに対して強い影響力を持っている。

国営・公共メディアであれ、商業メディアであれ、いわゆる主流メディアでは権力と富が集中するところに寄り添うという明確な傾向が幅広く見られる。報道の対象は、政治的・経済的エリートの行動や利益に大きく焦点を当て、独自の調査よりもそれらの公式発表に大きく頼っている。たとえば、自国政府が他国に対して戦争をしかけようとする場合、あるいは他国での戦争の継続を望んでいる場合、メディアはそれに疑問を呈したり、あるいは平和的な可能性を探ったりすることは少ない。自国政府や強力な同盟国政府によって流されるプロパガンダ偽情報でさえ、疑問視することなく報道することも頻繁にみられる。

さらに、報道機関の所有権が少ない企業に集中すると、報道内容は似通ったものとなり、権力や富とメディアの距離が近づくと報道の内容や視点も狭まりやすくなる。また、民主国家であるからと言って、「報道の自由」があると考えるのは「幻想」であるというもある。国家や企業のメディアへの影響力の要因については、GNVの記事を参照していただきたい。

国際報道に関しては、国営・公共メディアと商業メディアによる国際報道には大きな問題がある。第一に、国際報道自体が少なく、ここ数十年で商業メディアによる国際報道量が低下している。第二に、報道の内容に大きな不均衡がある。メディアは普段から世界の大半でみられる事象をほとんど取り上げていない。たとえば、GNVが頻繁に指摘しているように、日本の報道機関においては、高所得国や、自国政府や企業が重要視する国に関する報道に国際報道の大部分を占めている。新型コロナウイルスのパンデミック時からみられた世界格差の急増など、世界の大きなトレンドは、日本の主要メディアではほとんど報道されないままだ。さらに、国外で発生する日本企業の不祥事にはほとんど関心を示さないようだ。

記者会見を行うイラク軍と米軍の担当者、イラク(写真:Chairman of the Joint Chiefs of Staff / Flickr[CC BY 2.0])

このような傾向は世界中で見られる。全般的に世界でみられる報道は裕福な国とその政府の優先順位によって独占されている。この世界の情報環境における問題については、1970年代から1980年代にかけて国連の委員会などで警鐘が鳴らされた時期もあったが、現在も根強く残っている。また、政府の行動は他国のメディアへの影響にもつながる。たとえば、多くの政府はPR会社に依頼し、自国や政府を好意的に描写するよう他国のメディアに影響を及ぼそうとすることがある。さらに政府開発援助(ODA)においてもメディアへの影響がみられる。ODA事業に対して、被支援国でのメディアによる批判的な精査を受けることなく、肯定的に報道されることがほとんどであるという指摘がある。

こうしたことを考慮すると、政府や企業の利害から独立して活動できるメディアの発展が大いに必要とされている。さらに、グローバル化はますます進み、世界とのつながりはかつてないほど高まっているにもかかわらず、主流メディアにおける国際報道の量が低下していることは問題であり、ここにも独立系メディアが果たすべき役割があろう。

資金調達の課題

独立系メディアは長い間存在し、政府や企業からの資金提供がないなかでも自らを維持する方法を見出してきた。グローバルな視点を持つ独立系メディアという点では、イギリスを拠点とするニュー・インターナショナリスト(New Internationalist)誌が顕著な例である。この雑誌は1970年代に、低所得国や人類が直面するグローバルな問題を取り上げようとしない商業メディアを問題視し、国際支援を行う非営利団体によって創刊された。現在は、スタッフと4,600人の読者が所有する協同組合となっている。

独立系メディアの発展に大きく貢献したのはインターネットの台頭である。従来、報道機関を運営するには、新聞や雑誌なら大規模な印刷機や流通網を、放送メディアなら放送設備やアンテナ網を整備する必要があった。いずれも大規模な投資、つまり政府や大企業の関与が必要だった。インターネットはこれを変えた。小規模の独立系メディア組織は、文字、音声、映像も、インターネットを通じて多くの読者・視聴者に低コストで簡単に配信することができるようになった。

ニュー・インターナショナリストのオーストラリア支局(左)、2015年の表紙(右)(写真:Singhmon(左)NewInt(右) / Wikimedia Commons[Public domain(左)CC BY-NC-ND 2.0(右)])

また報道の原料となる情報の収集には、特に報道機関が現地にジャーナリストを配置する場合、依然として大きなコストがかかるが、インターネットやその他の情報通信技術の進歩によって、遠隔地からの情報収集も容易になった。全体として、こうしたテクノロジーは独立系メディアの発展にとって大きな可能性を秘めている。

一方でインターネットの台頭は、独立系メディアにとって多くの課題ももたらした。独立系メディアは、その活動費を読者・視聴者からの購読料や寄付に頼ることが多い。しかし、オンライン・ニュースの普及は、報道に対する人々の支払い意欲の低下につながっているようだ。2024年に20カ国を対象に行われた調査によると、オンライン・ニュースのユーザーのうち、購読料などお金を払っている人は平均でわずか17%だった。日本は低い方ではわずか9%だった。

同様に、ソーシャル・メディアなどテック企業の台頭も独立系メディアに可能性と課題をもたらしている。多くの独立系メディアは、検索エンジン(主にグーグル)とソーシャル・メディア・プラットフォームに大きく依存しており、読者・視聴者の発見につながっている。

しかし、検索エンジンやソーシャル・メディアのプラットフォームは、このようなコンテンツの閲覧から発生する広告収入の大部分を独占しており、コンテンツを提供している報道機関にはなかなか還元されない。また、これらのテック企業はオンラインに投稿されたコンテンツが読者・視聴者に見られるかどうかをコントロールすることができる。これらの企業は、時にはプラットフォーム上のアルゴリズムを調整し、ユーザーに表示される報道の量を減らすという突然の決定を下すこともある。また、シャドーバン(shadow ban:隠されたアクセス禁止)と呼ばれる方法で、プラットフォームが特定のサイトがみられる可能性を意図的に低下させるという、より的を絞った場合もある。こうした行動は、自国政府に求められ、行われることもある。

独立系メディアは、そのビジョンや編集方針を支持する裕福な寄付者による資金提供に依存している場合がある。アメリカを拠点とするプロパブリカ(ProPublica)はそのような報道機関のひとつで、当初は一人の裕福な寄付者によって設立された。富と権力が集中する組織や個人に対する批判的な報道で瞬く間に有名になった。しかし、裕福な寄付者に頼ることにはリスクがある。ドナーからの資金提供は短期的なものだと持続性が損なわれる。また、寄付者が立場を利用し、報道の内容や取り上げ方に影響を与えようとする危険性もある。

ラップラーの創設者、マリア・レッサ氏(写真:Franz Lopez / Flickr[CC BY-NC 2.0])

独立系メディアのなかには、こうしたリスクに対処するための内部ルールを策定しているところもある。たとえば、南アフリカを拠点とする独立系メディア組織アマブンガネ(amaBhungane)は、単一の寄付者からの資金提供の割合を全体予算の20%に制限している。

これからの独立系メディア

以上のように、独立系メディアが直面する課題は大きい。しかし、独立系メディアが世界各地で発展を続けるにつれ、メディアが支援の対象となることもある。たとえば国連教育科学文化機関(UNESCO)は、低所得国の独立系メディアの発展を支援するため、助成金を提供しはじめた。また2022年には、同様の目的で公益メディアのための国際基金という別の基金も設立された。さらに、国際メディア支援(IMS)や、独立系メディアの法的保護を支援するレポーターズ・シールド(Reporter Shield)などの非営利団体も、こうしたメディア組織の活動を支援するために活動している。

1948年の世界人権宣言の19条には、すべての人が「国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由」が盛り込まれている。国連の持続可能な開発目標(SDGs)のゴール16にも、「情報への公共アクセス」の確保という目標が含まれている。報道機関はこの点で重要な役割を担っているはずである。

国営・公共メディアや商業メディアが、報道活動において政治や企業の影響から「独立」することを、公式にも法的にも妨げるものは何もない。しかし、彼らがこの役割を十分に果たせない限り、それに代わる独立系メディアが必要になる。この独立系メディアがどの程度この役割を果たせるかは、読者・視聴者にどの程度必要とされるかにかかっているのかもしれない。

 

ライター:Virgil Hawkins

 

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