世代を経たベナンへの「回帰」

by | 2025年08月1日 | GNVニュース, サハラ以南アフリカ, 共生・移動, 北中アメリカ, 南アメリカ, 政治

GNVニュース 202581

近年、ガーナやギニアビサウ、リベリアなど多くのアフリカ諸国が、1718世紀にアフリカから南北アメリカへ奴隷として送還された子孫たちに対し、文化的・社会的な絆の強化等を目的に市民権付与やルーツ回帰を促す政策を推進している。こうした流れの中、ベナン共和国は20249月、他国とは異なる背景と意義を持つ市民権付与の法律を施行していた。

ベナンはギニア湾沿岸に位置し、かつてのダホメ王国時代、特に港町ウィダを中心に奴隷貿易の一大拠点として発展した。当時、ダホメ王国の支配者はアフリカ内陸部の集落を襲撃し、捕虜となった人々をポルトガル、フランス、イギリスの商人に奴隷として売却していた過去がある。ベナンはこの奴隷貿易への共謀を公式に認め、長年、奴隷として南北アメリカに連れて行かれた人々の子孫との和解に取り組んできた。1999年にはマチュー・ケレクー大統領がアメリカを訪問し、アフリカ系アメリカ人に公式謝罪をしている。また「帰らざる門」など、奴隷貿易の歴史を伝える記憶遺産は、現在ベナンの観光の柱となり、子孫の訪問も増えている。

このように奴隷貿易において被害者だけでなく、加害者としての歴史を持つベナンは、祖先への償いの文脈からも子孫との連携に前向きであり、20249月に子孫のルーツへの再結合援助を目的として、奴隷として南北アメリカに連れて行かれた祖先を持つ人々に市民権を付与する法律を制定した。この法律では、他のアフリカ諸国の国籍を持たず、18歳以上であれば、祖先がサハラ以南アフリカから奴隷として連れ去られたという証拠(DNA検査結果、認証書、公的記録、家系譜など)が認められることで3年間の暫定市民権を獲得できる。その後、ベナンを訪問し、国籍が付与されるまで滞在することで、正式な市民権を獲得できる。ただし、市民権獲得後も選挙権や公務員資格は与えられない。

2025730日、アフリカ系アメリカ人の有名歌手が公人として初めてベナン共和国の市民権を獲得したことで、再びこの回帰への歓迎は注目を集めている。

 

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上部に奴隷となった人々が彫刻された、ベナンの「帰らざる門」(写真:Erik Cleves Kristensen / Flickr [CC BY 2.0])

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