インド・ビハール州:有権者再登録に懸念

by | 2025年07月13日 | GNVニュース, アジア, 共生・移動, 政治, 法・人権

GNVニュース 2025年7月13日

インド東部のビハール州で、選挙管理委員会(ECI)は2025年6月24日、約8,000万人の有権者を対象に、有権者として再登録手続きを求める通達を出した。2003年以降に有権者名簿に加わった人々を対象に、生年月日・出生地の証明に加え、両親の一方または両方の市民権を証明する書類の提出を求めており、期限は7月26日までとされる。この選挙有権者名簿の再精査についてインドの最高裁判所は、2025年7月10日、ECIに対して、改訂作業が「憲法上の義務」として違法ではなく停止はできないものの、ECIが市民権確認に踏み込んでいるのであればそれはECIの管轄外だと強調し、なぜ今ビハール州でこの改定を行うのか、明確な説明を求めた。これに対しECIは都市化や国内移住の増加、重複登録などによって全国的な名簿改訂が必要であると主張している。

背景には、近年ナレンドラ・モディ政権下で進められてきた国籍に関するヒンドゥー教徒優遇政策 がある。アッサム州では、ベンガル人への反感から「不法な」移民を特定し退去させるため、1951年に国民登録簿(NRC)が導入され、2019年に更新がなされた。登録には証明書類を提出する必要があり、たとえ国籍を持っていたとしても、指定された書類が提示できなければ容易に隣国への強制送還や投獄の対象となってしまう。さらに2024年に施行された市民権改正法によって、ヒンドゥー教徒やその他の教徒の市民権獲得を迅速化する一方で、イスラム教徒を除外する不均衡な影響をもたらしていた側面があるとして物議を醸していた。今回の動きは、全国的な抗議活動によって全国展開が見送られてきたNRCをビハール州に導入し、大量の市民権はく奪を狙う裏口なのではないかとの指摘もある。

ビハール州では17%に当たる1,760万人がイスラム教徒である。加えて、同州の識字率は約74%とインド国内でも低く、出生登録率も未だ低いため、必要書類の提出が困難な人々が多い。さらに洪水などの自然災害により書類が失われるケースも多く、アダールカードと呼ばれる国民IDや配給カードなど一般的な身分証が公式の認証書類に含まれていない点も批判を呼んでいる。これらのコミュニティにとって、出自や居住地を証明する上での課題は多い。また、今回の影響を受けるコミュニティは野党である国民人民党(RJD)を支持する層が多く、今回のECIの措置が与党のインド人民党(BJP)にとって有利に働く可能性も懸念されている。

国民登録簿についてもっと知る→「抹消された400万人:インドの市民権問題

アッサムなどインド北東部における問題についてもっと知る→「不安定が続くインド北東部

写真:インド・ビハール州における選挙の様子(Goverment of India / Wikimedia Commons [Public Domain] )

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