GNVニュース 2025年7月6日
2025年6月23日に発足したイリエ・ボロジャン首相率いるルーマニア新連立内閣において、労働社会連帯大臣に初のロマ系政治家であるペトレ=フロリン・マノレ氏が任命された。ロマ人が主要省庁のトップに就任するのはルーマニア史上初めてのことである。
ロマはヨーロッパを主として世界各地に居住する人々である。ルーマニア国内には2011年時点での国勢調査で約62万人のロマがいると公式には統計されているが、実際にはロマというアイデンティティをもつ人は約190万人と推定されており、世界では約1,500万人いるとされる。彼らは歴史的に迫害や奴隷制度の搾取の対象となり、欧州連合(EU)の設立後も未だに雇用・教育・居住などあらゆる側面における根強い差別や貧困に直面している。
こうした制度的差別と社会的偏見によって構造的に排除されてきたロマの人々に対し、近年ではその社会的包摂と差別の是正を目指す取り組みが展開されつつある。ルーマニアのサトゥ・マーレ市では2019年から始まった「チェス・フォー・チェンジ」プロジェクトを通じて、ロマの子どもたちがチェスを学ぶことで学業成績と自己肯定感が高まる成果が報告されている。こうした取り組みは、ロマの人々の学校中退を防ぐと同時に社会参加を促し、制度的な偏見や排除を乗り越え相互理解を深めることが期待されている。また、2025年7月からは欧州評議会によるスイスとルーマニアが連携した、ロマの人々の失業対策や地域サービスのアクセス向上などの包摂を支援する新たなプロジェクトも開始された。こうしたロマ初の閣僚と新たな取り組みが、ロマの構造的に維持されてきた差別や偏見の撤廃と社会参加を促す契機になるのか、今後の実質的な包摂への進展が焦点になるだろう。
ロマについてもっと知る→「ロマ:現代に残る貧困と差別」
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写真:欧州委員会で登壇するペトレ=フロリン・マノレ氏(Parlamentul Republicii Moldova / Flickr [public domain] )
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