GNVニュース 2025年5月10日
エチオピア・ティグライ州では、2020年11月にエチオピア連邦政府と前政府の中心的な存在を担っていたティグライ人民解放戦線(TPLF)が政治的権力・自治権を巡って武力衝突し、ティグライ州西部の領有権を主張するアムハラ勢力や、隣国エリトリアも加わり、大規模な武力戦争に発展した。2022年11月にはプレトリア和平合意が結ばれ、同合意ではエチオピア連邦政府の統治権回復、TPLFの武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)、約100万人の避難民帰還などが約束された。しかし、合意から2年以上が経過した現在も、再び紛争が再燃する懸念が強まっている。
和平合意の履行状況を見ると、州西部ではアムハラ勢力がティグライの領土の一部を占領しており、エリトリア軍も駐留を続けているため、連邦政府の統治権回復は実現していない。また、TPLFやTPLF主導のティグライ州政府、ティグライ防衛軍(TDF)内での分裂と権力闘争も激化しクーデターも起きるなど、ティグライ州は混沌をとしている。こうした中でティグライのインフラや経済は壊滅的な状態が続き、避難民や住民の人道危機への対応が後回しになっている。
さらに、約12,000人の元戦闘員がDDRされたものの、約25万人が依然として社会復帰の見通しを持てずに取り残されている。支援も現金800米ドルや簡易な物資にとどまり、脱走や非正規移住、犯罪への流入が増加し、再び武装化の懸念も高まっている。DDRの遅延は資金不足だけでなく、TPLF内部の対立やTDFを巡る権力闘争も大きな要因であり、武器の隠匿疑惑や相互不信が根強い。さらに、領土問題や避難民の帰還の停滞がDDRの前提条件を整えられていない状況である。
こうした政治的混乱と外部勢力の介入の中、2025年3月のクーデターを経て成立したティグライ州の新指導部は戦時中にアムハラ勢力に奪われた西ティグライの奪還を目指しているが、これが新たな紛争の火種になる可能性も指摘されている。
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ティグライの武力紛争で壊れた戦車の横を歩く男性
(写真:Yan Boechat/VOA / Wikimedia commons)
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