FGM(Female Genital Mutilation)またはFGC(Female Genital Cutting)とは、女性に対する性器切除、または損傷を指す言葉である。健康上の利点がなく、むしろ害の多い行為であるが、伝統的な慣習としてアフリカ、中東、アジアで行われてきた。
GNVでは過去に、「女性性器切除(FGM)の激減:その背景には?」という記事にて、アフリカでのFGMの現状を取り上げた。また、「2018年潜んだ世界の10大ニュース」では、東アフリカで1995年から2016年の20年の間に14歳以下のFGMが激減したニュースが、第8位として選ばれた。
FGMは、2018年に激減していたことから、そのまま減少すると考えられた。しかし近年、場所によって再び増加しているということが報告されている。また、FGMに関連する死亡のリスクについても新たな研究結果が出ている。
今回GNVでは、ニュースメディア「ザ・カンバセーション(The Conversation)」より、女性性器切除(FGM)について取り上げた記事を2つ紹介する。1つ目は、2025年5 月12日タムシン・ブラッドレー氏による「アフリカで女性器切除が増加:不穏な新潮流がその数を増加させている」である。
2つ目は、2025年2月6日に掲載された、ヘザー・D・フロウ氏、アルピタ・ゴーシュ氏、ジェームズ・ロッキー氏による「新研究により判明:女性器切除は、それが行われている地域の少女の死因トップ」である。
2つの記事を通して、FGMの現状とその有害性、根絶のための道すじに迫る。

自身のFGMを阻止してくれた親友と肩を組む女性:エチオピア(写真:UNICEF Ethiopia / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
アフリカで女性器切除が増加:不穏な新潮流がその数を増加させている
《ザ・カンバセーション(The Conversation)の翻訳記事、タムシン・ブラッドレー氏(Tamsin Bradley )著(※1)》
サラマトゥ・ジャローは、将来有望な13歳の少女だった。しかし2023年1月、シエラレオネ北西部の村の土間で、ピンクとブルーの死装束に包まれた彼女の無残な遺体が発見された。
サラマトゥと他2人の少女の死因は、ボンドと呼ばれる秘密結社による女性への通過儀礼に参加した後の失血死だった。その儀式は、農村部のコミュニティでは滅多にない少女を祝う機会として興奮と期待感で始まり、数週間続いた。だが儀式の核心は、少女たちの外性器を切断し除去するという暴力的な行為だった。
彼女たちの悲劇的な死は、女性性器切除に関するユニセフの最新報告書で強調された。国連機関によれば、現在生きている2億3,000万人の少女と女性は、女性器切除を生き延びたが、悲惨な結果とともに生きている。
ほとんどの施術はアフリカ諸国で行われており、その数は1億4,400万件に上る。
この慣習をなくすためのキャンペーンが行われているにも関わらず、8年前と比べて、このような拷問を受けた女性と女児は、世界で3,000万人増えている。
女性と暴力を長年研究してきた応用社会人類学者として、私は20年以上にわたってこのような虐待の形態と、それが続く理由を研究してきた。虐待を減らすために前進している国もある。また、イデオロギーの変化や不安定な情勢や紛争によって、前進が止まっている国や後退している国もある。
ユニセフの計算では、2030年までにこの虐待をなくすには、減少速度を27倍にする必要がある。
傾向を理解することは、女性器切除をなくすための出発点である。新しい傾向の中には憂慮すべきものもある。女性器切除をやめさせようとする努力に対する保守派の反発、追跡が困難な「秘密の処置」の数の増加、「より重度ではない」形態への移行などである。医療専門家による施術の「医療化」が進んでいることも、憂慮すべき傾向である。

FGMのゼロトレランス国際デーに用いられた写真:コンゴ民主共和国 (写真:MONUSCO Photos / Flickr [CC BY-SA 2.0])
FGMの理由
切除の種類はさまざまである。最も深刻な形態である「鎖陰」では、陰唇の切り口を縫い合わせ、美しいとされる滑らかさを実現する。性交渉や出産の際には、膣を再び開かなければならない。
毎年、世界で50万人以上の少女が、この極端な形態の膣切除を受けている。
女性器切除を支持する人々の多くは、FGMが清潔を保ち、少女の結婚の機会を増やし、処女性を守り、「女性の乱交」を阻止し、その結果、家族の名誉が守られると信じている。また、生殖能力を高め、死産を防ぐ効果もあると信じている。
実際には、女性器切除には健康上の利点はなく、少女や女性にさまざまな害を与えている。ショック状態、出血、破傷風、敗血症、尿閉、性器の潰瘍、隣接する性器組織の損傷など、すぐに起こる合併症のリスクがある。長期的な影響としては、妊産婦の罹患リスクの増加、膀胱・尿路感染症の再発、嚢胞、不妊症、心理的・性的悪影響などがある。
アフリカ諸国におけるFGM
女性器切除が最も多い国は、ソマリア(99%)、ギニア(95%)、ジブチ(90%)である。
ケニアでは、この半世紀の間に驚くべき変化が起こった。かつては女性器切除が蔓延していたが、現在では国の大半がその慣習を放棄している。
しかし、ケニア北東部に集中するソマリ系住民のコミュニティの間では、ほとんど変化は見られず、この慣習はほぼ普遍的なままである。
ソマリアとスーダンは、紛争と人口増加の中で、広範囲に広がる女性器切除への対応という課題に直面している。
エチオピアは一貫して前進を続けてきたが、気候変動、疾病、食糧不安により、こうした成功を維持することが難しくなっている。
前進の脆弱性は明らかである。
保守的な医師の反発とコンプライアンス
この慣行をなくすことをさらに困難にしている、憂慮すべき傾向がいくつかある。
1つ目は、保守派による反発である。ガンビアの宗教指導者たちは、2015年に制定された女性器切除禁止法の撤回を議員たちに要求した。2023年、北部のバカダギ村の3人の女性が8人の女児を切断した罪で有罪となり、この法律に基づいて初めて大きな有罪判決が下されたことを受けて、宗教指導者たちは反発した。世界保健機関(WHO)は、ガンビアでの廃止は、他の国々がこれらの権利を保護する義務を無視することを助長しかねないと警告している。

FGMに反対するキャンペーンの道路標識:ウガンダ(写真:Amnon s / Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0])
2つ目は、秘密の処置である。手術が禁止されている国では、処置が隠されることも多い。また、発見されるのを避けるため、少女たちはより低年齢で切断されている。そのため、女性器切除の正確な割合を把握することが困難になっている。
3つ目は、「より重度ではない」形態への移行である。そのひとつが、クリトリスの切除である。スーダンやソマリアなどの国々では、膣が縫われていないため、多くの人がこれは害がないと考えている。推進派は、これは女性器切除にはあたらないと主張している。
4つ目は、医師、看護師、助産師のような訓練を受けた人々によって行われる「医療化された」処置である。それらはより安全だと考えられているため、正当な方法だと考える人もいる。公的あるいは私的な診療所、薬局、家庭などで行われることが増えている。
不安定化と権利の低下
女性性器切除を受けた少女と女性の約10人に4人は、紛争や脆弱性の影響を受けている国に住んでいる。エチオピア、ナイジェリア、スーダンは、紛争の影響を受けた国々で女性性器切除を受けた少女と女性の数が最も多い国である。
武力紛争と気候変動の壊滅的な影響により、貧困が急激に深まり、大量の避難民が発生し、人々は土地と生計手段から追われている。家族は深刻な貧困に陥り、家族が厳しい選択を迫られたとき、女児の権利が抜け落ちてしまうことが研究で明らかになっている。
花嫁価格のような結婚慣行による女児の商品化は、家族が他のあらゆる資源を奪われたとき、娘が売られる対象となることを意味する。少女の処女性を示すものとして、女性器切除が不可欠となる。
このおぞましい虐待をなくすための前進は、もっと早くなされる必要がある。トレンドの変化を理解することが、その第一歩である。
新研究により判明:女性器切除は、それが行われている地域の少女の死因トップ
《ザ・カンバセーション(The Conversation)の翻訳記事、ヘザー・D・フロウ氏(Heather D. Flowe )、アルピタ・ゴーシュ氏(Arpita Ghosh)、ジェームズ・ロッキー氏(James Rocky)著(※2)》
女性器切除(FGM/C)は、深く根付いた文化的慣習であり、約2億人の女性と女児に影響を及ぼしている。少なくともアフリカの25カ国、中東、アジアの一部、そして世界中の移民の間で行われている。
これは有害な伝統的慣習であり、女性の性器組織を切除したり傷つけたりするものである。多くの場合、女性の性と結婚の可能性をコントロールするという文化的信念によって「正当化」される。FGM/Cは、激しい痛み、出産時の合併症、感染症、トラウマなど、少女や女性に直接的・生涯にわたる身体的・心理的被害をもたらす。

FGM撲滅に取り組んでいる専門学校で助産師による授業の様子:スーダン、ダルフール (写真:UNAMID / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
私たちは経済学とジェンダーに基づく暴力の専門知識を結集し、FGM/Cによる過剰死亡率(回避可能な死亡)を調査した。私たちの新たな調査https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10432559/によって、悲惨な現実が明らかになった。 FGM/Cは、FGM/Cが行われている国における少女や若い女性の主な死因のひとつであり、大出血、感染症、ショック状態、陣痛障害によって死をもたらす可能性がある。
私たちの調査では、調査した15カ国で毎年約44,000人が死亡していると推定している。これは、12分に1人の割合で若い女性や少女が亡くなっていることに相当する。
これは、調査対象国において、マラリアや呼吸器感染症、結核を除くどの感染症よりも重大な死因となっている。言い方を変えれば、HIV/エイズ、はしか、髄膜炎など、これらの国の若い女性や少女にとってよく知られている多くの健康上の脅威よりも大きな死因なのである。
先行研究は、FGM/Cが激しい苦痛、出血、感染を引き起こすことを示している。しかし、この習慣によって直接引き起こされた死亡を追跡することは、これまでほとんど不可能だった。その理由のひとつは、FGM/Cが行われている多くの国で違法であること、そして一般的にFGM/Cは、医療監督のない非臨床的な環境で行われていることである。
危機が最も深刻な国
この慣習は、アフリカのいくつかの国で特に広く見られる。ギニアでは97%の女性と女児がFGM/Cを受けており、マリでは83%、シエラレオネでは90%である。エジプトでは87%の女性と女児がFGM/Cを受けているという高い有病率は、FGM/Cがサハラ以南のアフリカに限定されたものではないことを思い起こさせる。
私たちの研究では、包括的かつ絶対的な判断基準を持つFGM/C発生率情報があるアフリカ15カ国のデータを分析した。つまり、そのデータは包括的で信頼性が高く、FGM/Cと闘うための研究、政策立案、アドボカシー活動に広く受け入れられている。
私たちは、これまでのデータのギャップを克服するための新しいアプローチを開発した。1990年から2020年にかけての15カ国において、異なる年齢でFGM/Cを受けた女児の割合に関するデータを年齢別の死亡率と照合した。FGMが行われる年齢は国によって大きく異なる。ナイジェリアでは、93%が5歳未満の女児に行われている。一方、シエラレオネでは、ほとんどの少女が10歳から14歳の間に施術を受けている。
健康状態は場所や時期によって異なり、また同じ場所でも年によって異なるため、こうした違いを考慮するようにした。これにより、それぞれの国でFGM/Cが通常行われる年齢で、より多くの少女が亡くなっているかどうかを把握することができた。
たとえば、チャドでは0~4歳の女児の11.2%がFGM/Cを受けており、5~9歳では57.2%、10~14歳では30%である。私たちは、FGMのパターンが異なる国々と比較して、これらの年齢層間で死亡率がどのように変化するかを見ることができた。
この慎重な統計的アプローチにより、子どもの死亡率に影響を与える可能性のある他の要因を考慮しながら、FGMに関連する過剰死亡を特定することができた。

2014年にイギリスで開かれた少女サミットで用いられた写真:エチオピアの親子の様子 (写真:DFID – UK Department for International Development / Flickr [CC BY 2.0])
印象的な調査結果
私たちの分析によると、ある年齢層でFGMを受けた少女の割合が50%ポイント増加すると、その死亡率は0.1%ポイント上昇する。これは小さく思われるかもしれないが、影響を受ける国の人口全体に当てはめると、年間数万人の予防可能な死に相当する。
アフリカにおける武力紛争が1995年から2015年の間に年間約48,000人の戦闘による死亡をもたらしたのに対し、FGM/Cは年間約44,000人の死亡につながることを私たちの調査は示唆している。このことから、FGMはアフリカ諸国が直面する最も深刻な公衆衛生の課題のひとつといえる。
数字を超えて
これらの統計は、実際に命を奪われている人たちを表している。ほとんどのFGM/C処置は、麻酔、適切な医療監督、無菌器具なしで行われる。その結果生じる合併症には、重度の出血、感染症、ショック状態などがある。すぐに致命的な事態に至らない場合でも、長期的な健康問題や出産時のリスクの増大につながる可能性がある。
その影響は身体的な健康にとどまらない。生存者はしばしば、心理的トラウマや社会的困難に直面する。多くのコミュニティでは、FGM/Cは文化的慣習に深く組み込まれ、結婚の可能性と結びついているため、家族が伝統を続ける圧力に抗うことは難しい。
喫緊の危機
FGM/Cは単なる人権侵害ではなく、緊急の注意を要する公衆衛生の危機である。一部の地域では、FGM/Cを放棄する地域も出てきており、進展が見られる。一方で、私たちの調査によれば、FGM/Cと闘うための現在の取り組みは、劇的に拡大する必要がある。
COVID-19の大流行は、社会、経済、医療制度への広範な影響により、状況を悪化させる可能性がある。国連は、パンデミックによって、防げたはずのFGM/Cの症例が200万件追加された可能性があると推定している。私たちの死亡率の推計に基づけば、私たちが調査した15カ国で約4,000人がさらに死亡したことになる。
進むべき道
FGM/Cをなくすには、多面的なアプローチが必要である。法改正は極めて重要であり、FGMが最も一般的に行われている28カ国のうち5カ国では、FGMは依然として合法である。しかし、法改正だけでは十分ではない。深く根付いた文化的信念や慣習を変えるには、地域社会の関与、教育、草の根の組織への支援が不可欠である。
これまでの研究で、情報キャンペーンやコミュニティ主導の取り組みが効果的であることが示されてきた。例えば、エジプトではSNSへのアクセスが増え、FGM/Cに関するさまざまな見解を示す教育映画が使用された結果、FGM/Cの割合が減少したことが研究によって報告されている。

少年少女らがFGMが引き起こす結果について学ぶ様子:ブルキナファソ (写真:DFID – UK Department for International Development / Flickr [CC BY 2.0])
最も重要なことは、FGM/Cが行われている地域社会を巻き込むことである。私たちの調査は、これが単に伝統を変えることではなく、命を救うことであることを強調している。1年遅れるごとに、予防可能な死が何万人も増えることになる。
私たちの調査結果は、FGM/Cを終わらせることは、主要な感染症対策と同じくらい緊急の優先事項であると考えるべきであることを示唆している。何百万人もの少女と若い女性の命は、FGM/Cの根絶に懸かっているのだ。
※1 この記事は、ザ・カンバセーション(The Conversation)のタムシン・ブラッドレー氏(Tamsin Bradley )の記事「Female genital mutilation is on the rise in Africa: disturbing new trends are driving up the numbers」を翻訳したものである。この場を借りて、記事を提供してくれたザ・カンバセーションと著者のブラッドレー氏に感謝を申し上げる。
※2 この記事は、ザ・カンバセーション(The Conversation)のヘザー・D・フロウ氏(Heather D. Flowe)、アルピタ・ゴーシュ氏(Arpita Ghosh)、ジェームズ・ロッキー氏(James Rocky)の記事「Female genital mutilation is a leading cause of death for girls where it’s practised – new study」を翻訳したものである。この場を借りて、記事を提供してくれたザ・カンバセーションと著者のフロウ氏、ゴーシュ氏、ロッキー氏に感謝を申し上げる。
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