「新しいメディア」の国際報道:Yahoo!ニュース

by | 2017年10月5日 | News View, テクノロジー, 報道・言論

あなたは、今世界で起きていることをどのように知るだろうか?昔から存在する新聞やテレビのニュースから情報を得る人も多いかもしれない。しかし、インターネットの発達によるネットニュースの急速な普及も相まって、新聞のような従来のメディアは「オールドメディア」とも呼ばれるようになった。新聞は、最近になって電子版も多く利用されるようになり、ネットニュースの情報源としても使われているものの、紙媒体での新聞の発行部数は21世紀に入り徐々に減っている。それに対し、ネットニュースはここ数年で急激に利用者数を増やしている。調査によると、国内におけるモバイルニュースアプリ利用者数は2012年の303万人から2016年度末には3,385万人まで増え、2019年には5,410万人がモバイルニュースアプリを中心にネットニュースを利用すると予想されている。
ではこの新しいメディアは国際報道に影響を与えているのだろうか?ネットニュースの場合、紙を印刷して配達するコストが発生しないため、掲載するコストが少ない。しかし、ネットニュースの多くは無料で提供している。このようにビジネスモデルが変わってきているため、何らかの変化は予想される。しかし、ネットニュースの記事は独自で情報収集をしておらず、主にロイター通信やAFP通信、新聞やテレビなど他の従来型のメディアが情報源となっている。このような状況の中で従来のメディアに比べてネットニュースが提供している報道の内容は違うのだろうか?今回はLINEニュースやスマートニュースなど多くのネットニュースの中でも全体の25.8%のシェアを占め日本最大の利用者数(2016年1月現在)を誇るYahoo!ニュースに焦点を当て、国際報道の量および地域的バランス、国別報道量を分析していく。(※1) 

写真:Fairphone lovers

 

国際報道量の割合

初めに、全体の報道量から見て行こう。2016年Yahoo!ニュースの国際報道の記事数は、
「主要」カテゴリー17,527件の内「国際」ニュースが2,111件で、全体の約12%であった。(ただし日中関係など日本関連の国際報道を含む)(※3)この数字は新聞より多いのだろうか?2015年のGNVデータによると、朝日新聞:10%、毎日新聞:9.3%、読売新聞:8.9%となっており、多少多くなっている。ただし、新聞による調査には日本関連の国際報道を含んでおらず、対象年度が違うため正確な比較はできない。いずれにしろ、大きく異なるとは言えない。

 

地域別の偏り

次に地域別の報道量について見て行こう(※2)。下の図は地域別報道量の割合を示したものである。新聞と同じように、ネットニュースにおいても報道される地域と報道されない地域との間に大きな差があることが分かった。アジアが最も多く、次いで北米、ヨーロッパが多くなっている。これらの地域ではそれぞれ、アジアは北朝鮮の核実験および複数回にわたるミサイル発射実験関連のニュースが圧倒的に多く、シリア紛争も多数を占めている。北米はアメリカの大統領選挙、ヨーロッパはニース(フランス)のテロや難民関連のニュースが多くみられた。それでは、報道量が少ない地域ではどの国のどのようなニュースが報道されているかを見てみよう。まず中南米は、ほとんどがリオ(ブラジル)のオリンピック関連であり、その他にエクアドルの地震などが挙げられる。アフリカはエジプト航空機内で起きたハイジャック事件に関するものが最も多く、リビア沖の難民船沈没事故に関するニュースもみられた。

報道量の多い国

最後に報道量の多い国を見て行こう。2016年のYahoo!ニュースの中で報道量が最も多かった上位10か国をグラフにして下の図に表した。また比較対象として国際報道における日本に関連した記事数を右に示している。これらの10か国を地域別に分けるとアジアが5か国、ヨーロッパが3か国、北米1か国、中南米が1か国であり、この上位10か国の記事数だけで合わせて58.9%と全体の半分以上を占めている。ではこの各上位10か国でどのようなニュースが多いのだろうか。まずは10か国の中でも断トツで多く、単独で全体の4分の1を占めるアメリカ、そのニュースの大半は大統領選挙関連である。また、北朝鮮の核実験・ミサイル問題に関する報道が北朝鮮のみならず、アメリカや中国に記事一部にも含まれていた。つまり、報道内容としては、アメリカ大統領選挙と北朝鮮の核実験・ミサイル問題が国際報道の比較的多くを占めており、これは従来のメディアと傾向が似ていると言える。

今回の分析で新聞同様ネットニュースにおいても日本の国際報道は報道量が少なく、報道されるニュースに大きな地域的な偏りがあることが分かった。ネットニュースが他のメディアからの情報によるものだということを踏まえると、この結果から、ネットニュースは「新しいメディア」であるとはいえ、従来のメディアの優先順位や報道価値、および世界観を引き継いでいるといえる。つまり、グローバル化とITの発展により世界がより密接につながっていても、これまでのメディアと同じように、世界の限られた地域を断片的にしか報道していない。
ネットニュースは、幅広い情報源の中から多様なニュースを発信し、紙媒体の新聞よりも低いコストで発信することが出来る。このような長所をうまく利用すれば、より多くの国際報道を、よりバランスの取れた国際報道を発信することが出来るはずだ。ネットニュースが持っている可能性を生かし、国際報道を変えることを期待したい。
脚注

※1 データは2016年のYahoo!ニュースのアーカイブ記事を用いており、報道量は記事の件数で測っている。
※2 地域は、UNSD(United Nations Statistics Division、国連統計部)の基準に従い、アジア、アフリカ、オセアニア、ヨーロッパ、北米、中南米の6地域に分けた。GNVの国際報道の定義については「GNVデータ分析方法【PDF】」を参照
※3 「主要・国内・国際・経済・エンタメ・スポーツ・IT科学・ライフ・地域」の9つのカテゴリーに分類されており、今回の国際報道量はこのうち「国際」のカテゴリーに含まれる記事を指す。

ライター:Saeka Inaka
グラフィック:Saeka Inaka
 
 

0 Comments

Submit a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *